1.彼のキスが好き

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1.彼のキスが好き

雄介さんとの初めての出会いは面接会場だったらしい。 「覚えていないの?」 そう言われて、慌てて反論する。 「初めましては、研修の時です。部長に紹介されたから覚えてます。雄介さんこそ誰かと間違ってるんじゃないですか」 「そこまでいうなら。面接の時、ネイビーの細かい水玉模様のワンピースにジャケットを羽織っていたから印象に残っててさ。他の面接の子はたいていセットスーツに白ブラウスだからね。それに理子のことすごくかわいいなって思ってたんだ。近づきたいなって」 そんな細かいところまで見ていたなんて。私なんて緊張しまくりで全然面接官とか覚える余裕なんてなかった。転職したくて必死だったから。 そんな風に考えていたら、ふいに髪に触れてきた。 「面接なのにそんなこと考えてたんですか?信じられない」 「なんで?かわいい人をかわいいって正直に言ってるだけだよ。理子はかわいい、大事なオレのもの」 「そうやって私を甘やかさないでください!」 「どうして?」 にやっと笑みを浮かべて、私の見つめている。 「どうしてって…」 「オレは本当のことしか言わないの知ってるだろう。理子はいつもかわいいよ、誰にも触れさせたくない」 「……。」 そう言いながら、私の肩をゆっくり撫でて顔を近づけてきた。キスされるかもって思ったら自然と顎を少し上げ目を閉じた。 雄介さんの柔らかなくちびるが私と重なる。雄介さんにくちびるを許すと頭の芯がしびれてきてしまう。くちびるがまるで生きているかのように優しく私の神経を刺激しているみたいに感じてやまない。 呼吸が苦しいってなる直前でくちびるを離すのが、彼のやり方。自然と目を開くと優しく微笑んでいる彼と目が合ってうれしくってつい抱き着いてしまう。そうすると、私を受け止めながら頭を優しく撫でてくれる。それがたまらなく心地いい瞬間だ。 私よりも7歳年上の雄介さんは、30代に突入したばかり。私が転職した先の製薬会社のMRで一緒に営業に回っている。仕事のできる彼は、転職したての私の指導係も引き受け、ほとんど毎日一緒だった。出社してから営業先、帰社してからの書類作成なんかも一緒にやってくれた。だから、周りからは「吉住さんって理子のこと好きなんじゃない?」なんて言われたり噂になったりしたらしい。 しかし、ミスしたらきちんと叱る姿を目にした同僚たちは付き合っていない、仕事上の関係だと思っていったようだ。 私も最初は雄介さんのこと、上司としてしか見ていなかった。 まぁ、確かにちょっとはいいなって思ってはいた。好みのメガネをかけているところや、スーツ姿がかっこよかったから。それに、話し方がとってもスマート。 でも、良いことは良い、悪いところはすごく叱るというスタンスがしっかりしていたから、お気に入りの上司という域は出ていなかった。最初のうちは…。
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