おときが死んだ

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「さあ、次はすすぎだよ」  おばさんは、力まかせに桶を井戸の中に投げ入れて、並々と入った桶の水を引き上げると、洗濯物の入ったたらいの中にドシャッと入れました。その時、おときの着物もぬれました。  おときには、この着物一枚しかありません。  夏も冬も硬い木綿の着物、これ一枚です。冬の朝のぬれた着物は、とても冷たいものです。おときは、小さな手でぬれた所をキュッとしぼりました。 「それが、終わったら、飯食いな」  おばさんは投げ捨てるように言うと、スタスタと家の中に入っていきました。  おときはその後、何度も何度も桶の水を、引き上げて洗濯物をすすぎました。 そして、今度は洗った着物をしぼらなければなりませんが、大きな着物は、おときの手では、なかなかしぼれません。 それでも、よいしょとしぼります。その後、しぼってもしぼりきれない重たい着物を木の枝と枝とに渡された竹の棒に干します。 小さなおときより大きな洗濯物を干すのですから大変な仕事です。 重たいたらいを片付けて、パンパン叩く木の棒も片付けて、やっと、おときはご飯です。  粗末な木の椀によそわれたさらさらのおかゆが、毎日のおときの朝ご飯です。 「ぬれた着物で、上がるな」  今度はおじさんの怒鳴り声。  おときは、慌てて、いろりのある土間から離れます。 「はよ、飯食って、茶碗洗っとけよ」  と、またおじさんの声。
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