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良くんは今年も足を出したミニ浴衣。やはり行き交う人の目を引いている。
「人の視線集めるのって何でこんなに気持ちいいのかなぁ?」
君は天性のアイドルだよ。好きな曲が懐メロばかりじゃなかったら歌歌わせるのも良かったかもね。
今年のお揃い浴衣はタッくんに束砂さんにげたんわくん。俺はよく分からないが束砂さん推しのめうってキャラクターだ。きっと特注なんだろうな。
「キャラクター浴衣とか緊張する〜」
「げた様しっかり! 要は慣れです!」
「束やんに着せられちゃったねぇ」
相変わらず仲良しの三人だ。
「本乃編集長は一体どこでその金ピカの浴衣を買うのですか?」
「これは特注です。うたうものさんだって自ら描かれたキャラクターの浴衣は特注でしょ?」
二人とも眩しいよ。
更紗さんとはろんさんはしっとりとした黒の着物。はろんさんは今年はヴェアくんとらぶちゃんを連れてきている。
「毎年、ヴェアとらぶの話をしますからねぇ」
「やっぱり夏の終わりは火の玉屋ですよね」
そう。俺らがこうやってみんなで連れ立って歩くのは一年一度、宵宮の日にだけ開く火の玉屋を訪れるためだ。火の玉屋がろうそくに火を点けると一番波長の合うご先祖様がそのろうそくに宿り、一晩一緒に過ごせる。みんなそれが楽しみなんだ。
「私たちなんか、ご先祖様も双子ですからねぇ」
青地の浴衣のアッキー&マッキーがくすくすと笑う。
「瑠璃くんが見つけてくれたお陰だよね」
薫蘭風ちゃんは今年は水色。みんなこの日、ご先祖様とお話するために浴衣に気合いを入れるのだ。恥ずかしい姿見せたくないものね。まぁ毎年ご先祖様に恥ずかしい姿見せてるメンバーもいるが。
そうそう。大と徹は藍色の甚平だよ。ついでに教えておくよ。
みんなでワイワイとはしゃいで神社までの道を歩く。この神社は結構デカイ神社で常に人がいる。宵宮の夜となったら、その人手はなかなかのものだ。
「お腹空いたーー」
香多くんが居並ぶ屋台を目にしてつい叫ぶ。俺も何か食べたいけど先に火の玉屋だ。
みんなでキョロキョロしながら火の玉屋を探す。
「ありましたーー!」
そう叫んだのは束砂さんだった。
俺は急いで火の玉屋に行く。
「火の玉屋のおじさん、こんばんは!」
「お兄さんだ! おろ、にょたチョコ男子の嬢ちゃんか! 今年はまた一段と可愛いな! 」
「お世辞はいいよ。今年もお願い!」
「お世辞じゃないぞ? まあいい。なら行くか」
全員分のお題をおじさんは頂いてからろうそくに火を点ける。最初は伊織先生だ。
火を点けられたろうそくに手足が生えて、顔が浮かび上がる。
「お主、よく来られたな? あの世から見てたがこの一年泣かした女の子は四百七十七人だった。しかも監視の目をすり抜けてな! 監視の目は誤魔化せてもご先祖様の目は誤魔化せないぞ!?」
「へっ?」
素っ頓狂な声を上げる伊織先生の後ろで燃え盛る闘気が三つ。
「おばさん、どういうこと?」
一つは薫蘭風ちゃん。
「監視の目をすり抜けてですか? 私たちの監視は半分にも満たなかったんですね?」
一つはアッキー。
「まだ百五十人はいってないと思ってましたよ? 天誅必要ですか?」
一人はマッキー。
「ひぃぃぃぃ!! か弱い女の子に乱暴は駄目!」
「誰がか弱いんだよ!」
三人の声が綺麗に揃った。
「はいはい。喧嘩はなしね。次は双子のお嬢さん行こうか?」
火の玉屋のおじさんは、うまい具合に間に入ってアッキー&マッキーの火の玉を呼び出す。
「やほーー。この一年、踊りを特訓したから今年も踊ろう!」
「今夜くらい、やなこと忘れてさ!」
アッキー&マッキーのご先祖様は伊織先生への怒りをかわしてくれる。アッキー&マッキーの機嫌も直ってくる。
「はい次は嬢ちゃん!」
火の玉屋のおじさんはすかさず薫蘭風ちゃんの火の玉を点ける。伊織先生、命拾いしたな。
「1年ぶりね。私ね、最近のBLをちょこちょこ読んでみたの。世の中やっぱり進化してるわね。驚くことに女体化はBLに分類されるみたいなの……」
「女体化がBLですって!? そんな……、私のいる世界はBLの世界なの!?」
今年も薫蘭風ちゃんとご先祖様が何の話をしているか俺には分からなかった。
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