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と・く・べ・つ6 つるぺったん(汗)×火の玉屋
年一度、今日は宵宮の日。毎年のごとく伊織先生のスタジオメンバーは浴衣を来て俺の家に集まる。でも今年は大人しい。妊婦である母さんを気遣ってのことだろう。ちなみに俺は今年は浴衣を買わなかった。母さんが妊娠してから、家事は親父がほとんどやっているために母さんが空いた時間で俺の浴衣を縫ってくれるって言ったからだ。小さい頃は母さんがたまに浴衣縫ってくれてたけど、大きくなるに連れてそれも少なくなったんだ。
「はい。できた」
母さんは俺の浴衣を着付けてパンと俺の背中を叩いた。
「瑠璃のイメージカラーは赤だって聞いたからね。可愛くできてればいいけど」
金魚鉢をあしらった赤の浴衣。帯は黄色。俺は鏡の前でくるりと回ってみる。
「母さん、これ可愛い! ありがとう!」
「どういたしまして。さあみんなに見せてらっしゃい」
みんながいる居間に行くと、親父が小さくおぉと声をあげた。
「若いときの母さんを思い出すようだ……」
いつもテンション高めの親父が気持ちの昂ぶりを抑えているのは、やっぱり母さんを気遣うためだろう。その親父も今年は母さんが縫った浴衣を着ている。茶色の渋い色合いの浴衣だけど、親父の年ならそのくらいの渋さがいいよ。
「じゃ、瑠璃行こうか?」
伊織先生がソワソワしながらそう言った。今年も女児向けアニメのキャラクターが描かれた浴衣を着ている。どこで買うんだろうなぁ。女児の人気を勝ち取るための手段らしいが、素の伊織先生を見たら女児は逃げ出すんじゃないかな?
伊織先生に促されて、全員続々と家を出て全員出た瞬間に伊織先生が叫ぶ。
「瑠璃ーー!! その浴衣可愛いぞーー!!」
「お父さんだって言いたかったんだ!! 瑠璃可愛いーー!!」
「キュートーー!!」
大と徹も続く。その直後、俺の家のドアが開き母さんが出てきた。
「それ以上騒ぐとヤルからね?」
母さんは首をかっ斬るジェスチャーをしてまた家に入っていた。伊織先生も親父も大と徹もいきなり大人しくなり歩み始めた。
「やはり瑠璃くんのお母さんは最強ですねぇ」
五丁目さんは緑色の浴衣。着こなし難しそうだけど、綺麗に着こなしている。
「おじさま、手繋ごう?」
ピンクの浴衣の香多くんは、親父の手をキュッと握る。親父殺しなのに、親父だけはどうにも殺せないよね。おじさん人気は一番なのにね。
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