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数時間前のことを思い出しながら、ユウトは笑いあっている二人を見つめた。
そんな経緯で作られたクッキーをスバルは甘いと言って嬉しそうに食べていた。ユキを傷つけまいと言っているのか、奇跡が起きて甘いクッキーができたのか。傍から見たユウトにはわからなかった。
けれど、きっとこれでいいのだ。
嬉しそうに笑いあっている。この光景を、ずっと見ていたいとも思う。永遠に続けば、幸せなのに。
そう思ってみていると、ユキが改めてスバルを見上げた。
「あの、スバル殿下」
「なんだ?」
クッキーをもう一枚食べようとしていたスバルの手が止まり、ユキを見返す。目があったユキは頬を染めながら、恥ずかしそうに、嬉しそうに微笑んだ。
「お誕生日、おめでとうございます」
今日数々と言われたであろう祝いの言葉。
スバルは一瞬驚いたように目を開いた。そして言葉を理解したのか、口元には笑みを浮かべ、けれど何かに耐えるように眉を寄せ、目を伏せた。
「……ああ」
その声色は甘く、優しく、スバルの部屋に響く。
その光景をユウトも優しく見守った。ユウトがいなかったら、きっとスバルはユキを抱きしめてたんじゃないだろうか。
甘い雰囲気に耐え切れず、ユウトは邪魔するようにユキが持っていた残りのクッキーを一枚口に放り込んだ。
「あ、甘い」
何度も食べたユキのクッキー。それには味がしないはずだ。
けれど、今食べたこのクッキーには甘い味がした、気がした。
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