9人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
@@@@@@@@@
その日の夜。
ユキはいつものようにスバルの部屋に続く扉の前で警護をしていた。昨夜と同じようにユウトとスバルは二人で飲んでいるようだ。昨夜も警護しながらユウトの楽しそうな声が聞こえていた。
ユウトと一緒ならスバルも大丈夫だろう。ユキはいつもより少しだけ緊張を緩ませた。しかしユキはユウトがいるであろう扉の先を少しだけ睨みつけた。
羨ましい。ユキだってスバルと飲んでみたいのに。
ユキは少し不満げに唇を尖らせながらも、警護を続ける。
するとふとユキは今朝のことを思い出した。
『その……、その髪型……似合ってる』
思い出しながら少しユキは、ドキドキと胸を高鳴らせた。
「スバル殿下に褒められた……」
ユキはぼそりと呟いた。誰もいないこの部屋ではユキの声がよく響く。
制服じゃなかったが、髪型を褒められた。
褒められた。褒められた。スバルに褒められた。
初めて、初めて、褒められた。
スバルに褒め――……
(ふわああああああ……!)
ユキは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、興奮したようにベッドに向かって走り、飛び乗って足をバタバタとバタつかせた。
嬉しい! 嬉しい――……!
初めて褒めてもらえた――……!
たとえ、ユキを試すために言われたと思っても嬉しい。
ユキは枕に顔をうずめさせながら、チラリと自分の髪に目を向けた。
白銀の稀有な髪。
今まで少し目立って嫌だったのだが、スバルが褒めてくれたのなら悪くない。
なんだかとても綺麗な髪に思えてきた。
「ふふふッ!」
ユキは機嫌よくベットから起き上がって、急いで化粧台に向かって自分の顔を見た。顔を右に左にと動かして横に花のように編み込まれてある髪型を確認した。この制服を着てからサヤがしてくれている髪型だ。ユキも可愛いと思っていたが、時間がかかるので簡単なものに変えてもらおうと思っていたのだ。
しかし――……
「どうかなさいましたか? お嬢様」
すると、サヤがワゴンを押してユキの部屋に入ってきた。サヤはユキの部屋に入るときはノックをしない。ノックしてもしなくても、ユキは気配で誰かいることをノックをする前に察するので、しても意味がないと思いサヤはユキの部屋に入るときはノックをしなくなったのだ。だからユキは突然入ってきたサヤに驚かない。
ユキはサヤに目を向けた。サヤが持ってきたワゴンには軽食がのせられている。夜に警護をしているユキのためにサヤが用意したものだ。いつもサヤがユキの夜食の分をこうして運んできてくれるのだ。スープにサンドウィッチ。暖かいスープの香りに食欲が誘われる。
しかしサヤはユキが機嫌よく化粧台の鏡を見ている姿に、不審に思ってユキを訝し気に見た。その視線にユキは少し恥ずかしそうに佇まいを直した。
「サヤ、あの……」
ユキはサヤから目を逸らしながら髪をいじる。恥ずかしそうにしているユキにサヤは首を傾げた。するとユキは、小さい声でサヤに声をかけた。
「明日も、同じ髪型で頼む……」
「……ッ! はい!」
サヤは一瞬驚いたように目を開いた後、嬉しそうに微笑んで声をあげた。
サヤは思った。
昨日の今日でどんな心境の変化があったか知らないが、積極的におしゃれをしてくれるのはサヤにとっても嬉しいことこの上ない。けれどユキがこうしておしゃれをしようとするなんて、きっとスバル絡みだ。何か言われたのだろう。何て言われたんだろうか。
サヤはウキウキしながら、持ってきた紅茶をカップに注いだ。
問いたださなくては。今夜は楽しくなりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!