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1-1.サヤの苦労
スバルに誓いを立てた、その次の日の朝。
サヤは意気揚々としてユキの部屋を訪れた。もちろん、自分の主の身支度を整えるためだ。
サヤが住んでいるのは宮殿の近く、宮殿の使用人たちが住んでいる住居だ。本来であれば、宮殿の使用人になるには代々王家に仕えている家柄の良い家系の者か、もしくは使用人の中でも歴の長いベテランの者だけだ。宮殿で働けるというだけで、使用人としての誉れと言われている。そんな中歳若い、さらにそれほど身分のないサヤが住み込みで働くことができるのは、第二王子のスバルの護衛騎士になったユキのおかげだ。
けれどサヤにとっては誉れだとかいうのはどうでもいい。ただユキのそばにいて、お世話をしたいだけなのだ。
ユキは昔からなぜか父に嫌われて、暴力を振るわれていた。館の使用人たちはそんな傷ついたユキには目もくれず、助けもせず、見ていただけだった。しかし、サヤは放っておけなかった。一人で痛みに耐えて、泣きもせず、助けもされない、そんな寂しそうな背中が見ていられなかった。大したことはできずとも、なんとか彼女の心に少しだけの安らぎを与えたかった。居場所はあると、そう教えたかった。
話しかけてみたらユキはいい子だった。少し意地っ張りで思い込みが激しいところはあるけれど、見てみぬふりをした使用人を責めず、暴力を振るう父も責めず、自分がいけないのだとそう語る、心優しい人だった。
だからサヤはすぐにユキが好きになった。この人の幸せになるところを見たいと思ったから、だから彼女と一緒についていきたかったのだ。
サヤはそんな昔のことを思い出しながら、ユキの部屋に勢いよく入った。
「おはようございます! お嬢様」
「おはよう。サヤ」
部屋に入るとユキはもう起きていて、騎士の制服を着てベットの端に座っていた。それは昨日サヤがアレンジした制服だった。それを目にしたサヤは目をキラキラと輝かせながらユキに近付いた。
「お嬢様、いかがでした⁉」
「……」
あんなに嫌がっていたその制服を着ているということは、昨日何かあったに違いない。
もしかしたらスバルに褒められたのかもしれない。ユキの魅力にメロメロにされてあんなことやそんなことをしたのかも。
サヤはそう期待してユキにキラキラとした目を向けた。しかし当のユキはサヤのその視線に気まずそうに目を逸らした。
「何も……」
「ええ⁉」
気落ちした声で報告するユキにサヤは声をあげて驚いた。
制服を着て準備しているからてっきりうまくいったものだと思っていた。
サヤは顔を引きつらせた。
ありえない。ユキに似合うだろうと思ってこんなにかわいくアレンジしたのに。目の前で座っているユキをサヤは改めてみる。透き通るような白い肌に白銀の髪を持つユキには白い服は似合う。少し切れ長の丸い黄金の瞳だって、神秘的で引き込まれそうだ。同性のサヤでもその満月のような瞳の美しさにぼうっと見惚れてしまう。何より元の素材が可愛いからなんでも似合う。スバルの感性はどうなっているのか。心が通じ合うとまではいかずとも、褒めるとか見惚れるとかあってもおかしくないだろう。
そういえばユキの令嬢時代、スバルに会うのにサヤが張り切って用意したドレスや飾りだって、今日も褒められなかったと落ちこんでユキが帰ってきたことが度々あった。
サヤはもうスバルが同性愛主義者と言われてももう疑わない。
会ったこともないスバルに無礼なことを思っていると、ユキは顔を逸らしながらも顔を赤くした。その反応にサヤも首を傾げる。
「けど……」
「けど?」
顔を赤くしながら言いにくそうに口ごもってるユキに促すように声をかけると、ユキはもじもじと指をいじり始めた。
「……抱きしめられ……た」
「まあ!」
サヤはユキの答えに嬉しそうに声をあげた。
なんということだ! やっぱり何かあるじゃないか!
しかも抱きしめられただって? その反応はもう一つしかないじゃないか。
サヤは口に手を当ててワクワクとユキに話を促した。ユキは顔を赤くしてもじもじと指を動かしている。恥ずかしいのか声が小さくなってきている。
「そ、それで、その……顔を近づけられて……」
「まああ!」
その先の行動を想像してしまいサヤも思わず赤くなる。
まさか、まさか、そのまま――……⁉
ドキドキと期待しながらユキに近付いて同じようにベットの端に座る。
使用人という立場でも、やはり恋の話というのはワクワクしてしまうものだ。この時ばかりは使用人という垣根を越えて話せる気がする。
期待しながらじっと見ていると、ユキは顔を真っ赤にしてサヤから気まずそうに視線を逸らした。
「思わず背負い投げをしてしまった……」
「なんで⁉」
サヤは驚いて声をあげた。
まさかの展開にサヤは驚きを隠せない。なにがどうしてそうなった。
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