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しかしユキは気にせず話し続けた。
「だって殿下の目、なんだか熱っぽかったし、今思えば身体も熱かった気がする。最近お休みになられていないようだったし、きっと疲れが出たんだと思う。きっとしんどくなって私にもたれかかったんだ」
「……じゃあ顔を近づけてきたっていうのは?」
「それは……きっと熱を計りたかったんだ! 人の体温で自分が熱があるかどうかわかるときがあるからな!」
「……」
話してきてユキ自身も納得してきたのか自信満々な声色に変わっていった。
サヤに見向きもせず、一人でうんうんと納得して笑うユキにサヤは複雑な感情で見つめた。
「ほら。やっぱり殿下は殿下だ。私にメロメロになんてなることはないよ」
「……」
ユキはサヤに顔を向けると、安心させるようにサヤに優しく微笑んだ。
ああ、この人はどうしてこんなにも自分に自信がないのか。
サヤはなんだか泣きそうになった。
なぜ向けられた好意をそのままに受け取れない、ある意味歪んだ性格に育ってしまったのか。
あまりに不当な扱いを受けすぎて、自分を好きになってくれるわけがないと思い込んでいるのだ。
どれもそれも、あの性格最悪な暴力男のツクヨ男爵と一度振ったあの見る目のないスバルのせいだ。
さらに言えばスバルが一つでもユキを褒めてくれれば、ユキの中でもっと違っていたかもしれないのに。さっきの言葉から『ユキを褒めるなんて、ましやて好きになるなんてスバル殿下じゃない』って言っているようなものではないか。というか、なぜユキはそんなスバルが好きになったのか未だにサヤには理解できない。
それに、好きになってくれないこと自体にユキは安心しているように見える。
もしかしたら、変わってしまうことが怖いのかもしれない。
好きになってくれないのは当たり前で、見向きもされないのは当たり前だと、そう思い込むことで気持ちのバランスをとっているのかもしれない。
なぜなら、そうなってしまうと、あの時婚約破棄されたことの説明がつかないからだ。
傷つかなくてもいい傷をついたと、思いたくないからだ。
あの婚約破棄は思いの外、ユキの心に大きなトラウマを残してしまったのかもしれない。
ユキのあまりの痛々しさにサヤは目線を下に向けた。
すると、落ち込んでいると勘違いしたユキは励ますようにサヤの肩に手を置いた。
「けどサヤ、私はこの制服、可愛くて気に入ってるよ!」
「けど……」
不満そうな声をあげるサヤに、ユキは慈しむように微笑みかけた。
「それに私が望むのは、殿下のおそばにいいること。それ以外なにも望まないよ」
「お嬢様……」
サヤはこれ以上言葉を継げず、俯いた。
しかし俯いている中、サヤの中で怒りがふつふつと湧いていた。
どれもこれも、スバル野郎殿下のせいだ!
ユキからの話を聞く限り、どう考えても脈ありなのに、婚約破棄した理由がわからない。
ユキの想いが叶って欲しいと思うけれども、想いが通じることでユキを苦しめるのなら早いとこスバルに諦めてもらった方がユキにとっていいのかもしれない。
しかもスバルという男はなんと女々しいのか!
一度振っておいて、近くにきたら手を出そうとしてきて!
勝手にもほどがある!
好きだったのなら両想いになってさっさと結婚してしまえばよかったのに!
サヤは心で怒りを爆発させながら、いつもより乱暴にユキの髪をすいた。
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