二人の騎士

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「お前はもう、私のモノだ。私だけのモノだ」  ぐったりと手足を投げ出したウルジュを抱き寄せて、カルマンは彼の耳に甘い言葉を流し込む。  やっと手に入った。私の──僕だけの愛しい人。  自分を罪に落としたのがカルマンだと知ったら。友はどんな顔をするだろう。内心密かにカルマンは笑う。 「……家族は……俺の家族は、どうなる……?」  こんな時に口にするのが家族の事か。カルマンは鼻白(はなじろ)んだ。  僕を見て欲しい。僕だけを。お前の心に住むのはもう、僕だけでいい。 「……ふん。お前の態度次第さ」 「っ! ……お前なら……お前なら、俺の家族を……助けられるんだろう?!」  縋り付くように。ウルジュは青ざめた顔をしてカルマンを見上げる。 「お願いだ……家族には手を出さないでくれ……俺は……もう、どうなっても、構わないから……っ」  ──ああ。何だ。簡単なことだった。彼を手に入れるのは。彼の『心』をへし折ってしまうのは。  カルマンは自分の『心』が冷たく凍って、その癖、脳髄は熱く(たぎ)って行くのを感じる。  めちゃくちゃにしてやりたい。お前の家族などすでに死に絶えたと言ってやりたい。そのためだけに奴らを八つ裂きにしてやっても良いとすら、思った。  いや、それは後の楽しみのために取っておこう。  ウージュが完全に自分のモノになったと確信した時のために。 「……お前の態度次第、と言っただろう?」 「……っ」  ウルジュは悲痛の表情で息を飲む。  まだ足りないのか。これだけ(はずかし)め、(しいた)げても、なお。 「……そんなに、俺が憎いのか……?」  なにを馬鹿なことを。なにを勘違いしている。憎い訳がない。こんなにも、こんなにもお前を愛しているのに!  カルマンは、心の中身を吐き出さない。ただ静かに、すっかり中年の域を迎えた親友の顔を撫でてやった。愛しいと心を込めて。 「……っ……お前が、謝罪しろと言うなら、そうする。抱かれろと言うならそうする。だから……」  皆までは言わせない。聞きたくない。カルマンは友の唇を(おのれ)の唇で(ふさ)いだ。 「……んっ……ふ、ぁ、っ……んぅ……っ」  深く口づけられて、ウルジュは観念したようにカルマンに身を任せる。たっぷりと乾いた唇を味わって、舌先を(なぶ)ってやるとウルジュは観念したように眼を閉じた。 「ん……お前が僕のモノになるなら……悪いようにはしない。だから、お前は態度で示せ」 「……っ」  のろのろと囚人(しゆうじん)は身を(かが)めて、一切の表情を消した。そして、無様にかっての友の靴に口づける。 「どうぞ……どうぞ、お慈悲を。カルマン、様……」
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