二人の騎士

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 カルマンはその日、朝から落ち着かなかった。お母様が新しい学友をつれて来るというのだ。  その子は自分の一つ年下で、我が家に仕えているレスタベリの家の長男だと聞いた。  カルマンは六歳になって、色々な勉強を始めた。  有力な領主の家であるトゥアレグの家には、家庭教師が幾人も雇われていた。  カルマンも兄姉と一緒に学問を修めることになって、家来の子が学友として選ばれたのだ。  カルマンはさらさらと柔らかな、自分の金の髪を触りながら、お母様と新しい学友がやってくるのを待っていた。  やって来るという子はどんな子だろう。チビかノッポか。どちらでも良い。カルマンの子分になってくれる奴だといいのだが。  カルマンは末っ子で、周囲に甘やかされのびのびと育ってきた。  彼が今一番欲しいもの、それは何でも自分と一緒にやってくれる、楽しい『友達』だった。 「……カルマン。待たせたわね」 「お母様!」  窓辺に置いた小さな椅子に腰掛けていたカルマンは、扉を開けて入ってきたお母様に駆け寄った。  お母様はいつでも優しく、自分の願いは何だって叶えてくれた。いつだって一番欲しいモノをくれた。今度もきっとそうだ。 「ほら、この子が新しいお友達よ」  お母様の影からカルマンより少しだけ背の低い男の子が顔を出した。  緩やかなウェーブのかかった黒髪と、白い(はだ)、綺麗な紫色の眸。その紫色の眼をぱちぱちと瞬いて、男の子はカルマンを見つめてくる。  初めての場所で恐縮しているその顔立ちは優しげで、カルマンは一目で気に入った。 「ご挨拶なさい」  ──僕はお兄ちゃんだから、ちゃんと挨拶して、お手本を見せくっちゃ!  カルマンは胸を張った。 「僕はカルマン・トゥアレグだ。よろしくな」  ぶっきらぼうに差し出された小さい手。カルマンは幼い顔を紅潮させて、精一杯威厳を保とうとする。 「……ウルジュ・レスタベリ、です。よろしくお願いします。カルマン様」  男の子──ウルジュはおずおずと握手を返して、挨拶をする。懸命に練習してきたのだろう。声はちょっぴり小さかったが、間違えることなく言い切った。 「お前がレスタベリの子か。お前はこれから僕の友達になるんだ。だから様はいらない。カルでいい」 「じゃあ、僕はウージュでいいよ。あ、じゃなくて、いいです」 「丁寧にしゃべるのも無しでいい。友達だからな!」 「でも……」  いいのかな? ウルジュはカルマンのお母様に許可を得るように、困り顔で振り返った。  お母様はにこにこと笑って、息子とその新しい友達のやりとりを見守っている。 「来いよ。僕の宝物見せてやるから」 「あ。うんっ」  部屋を駆け出して行ったカルマンの後を、ウルジュが追う。  その日から二人は友となった。
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