<たぶんもう愛せない>

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<たぶんもう愛せない>

「始めは大人しくて自己主張しない無難な女とう感覚だったが、一緒に過ごしていくうちに優しさや美しさに惹かれていった。どんなに愛したとしてもあの人に邪魔をされるだけだと、愛してはいけないと思っても愛さずにはいられなかった。そして今、目の前にいる奈緒は、あの人に何とか抗えないだろうかと考えることができるほど愛している」 「でもあなたは弥生の束縛と執着から本気で逃れようとしなかった」 「それでも奈緒を愛してる。この先もずっと」 「海智さんと呼んでいた私は海を愛してた。あなたに愛されたくて弥生さんの真似をしてエステに行って、苦手な料理を克服する為に勉強したの。あなたに美味しい家庭料理を作るために、何もかもがあなたの為に」 「でも、わたしはもうきっとあなたを愛せない」 海はソファに深く沈み込むように座っている。 パトカーのサイレンが遠くから聞こえ、徐々に近くになってくる。 そして、サイレンは隣の家の前に止まった。 「お義父様は警察を呼んだのね」 「俺も事情聴取を受けることになるな、共犯だといわれても仕方がないからな」 「離婚しましょう」 「それは出来ないんだ」 「あれだけの証拠があるんです、訴訟をしてでも離婚したいです」 海は背中を丸め両手を組んでグッと握りしめてから、顔を上げると意を決したように話した。 「俺たちは本当の意味での婚姻関係ではないから」 気まずそうな海の表情に不信感が募る。 「どう言うこと?」 「俺たちの婚姻届はあの人が持っている」 「私はあなたにとって、ただの他人で同居人だったということ?」 足元から、全てが崩れ落ちるようだ。前回は確かに籍は入っていたはず。 「あの人が、奈緒に子供ができなかった場合、離婚となれば財産分与の問題が出るから妊娠して安定してから婚姻届を出せばいいといって持っていってしまったんだ」 「どこまでも残酷な人なのね」 海は項垂れたままだった。 「わかった、ただの同居人なら何のわだかまりもなく出ていける」 「奈緒」 「さようなら、私の荷物は後日運び出します」 私はキャリーバッグに入るだけの荷物を持って家を出た。 海はただボンヤリとソファに座っていた。
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