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共犯者
「いいよ。おれでよければ協力してあげても」
お互いの利害関係が一致したわたしと彼は、こうして"共犯者"になった。
*
「この前、真中さんのこと見かけて、学校のときとは違う姿にドキドキしちゃって……すきになったというか、なんというか。だからその……」
放課後、話したいことがあるから教室で待っててと言われたと思えば、こんなことのためだったのか。
「悪いけど、わたし、そういうの興味ないの」
目の前の彼には確か恋人がいたはず。きっと言い出しにくそうにしているということは、わたしを都合のいい相手にしたいと思っているということで、争いに巻き込まれる恐れのある、そんな男の相手なんてまっぴらごめんだ。
「そっか、残念。じゃあもし気が向いたら、よろしく」
昇降口で彼女が待ってるから、おれはもう行くよ。
そう言って、男は教室を出て行った。
あんな男のために時間を使って、感情豊かに一喜一憂なんかして、見る目がない彼女。かわいそうに。
「……こら。部活に入ってない生徒は、用がある場合を除いて速やかに帰れっていつも言ってるだろ」
男が出て行ってから程なくして、スーツを着た彼……叶沢篤彦先生が、教室の出入り口から顔を覗かせた。
何がこらですか。子ども扱いして。
「理不尽ですよ、せんせ。わたしは、ここに残るように呼び止められた側の人間なんです」
「おまえは相変わらず減らず口ばっかり。おれの前だとかわいくないんだから」
「せんせってば、何を言うんです。わたしほどかわいい生徒はいませんよ?」
「はぁ。そうだな。ったく生意気なやつ……」
今年、25歳で就任した先生が最初の授業で教科担任として挨拶したとき、わたしはなにかシンパシーのようなものを感じた。
そしてそれは、先生の方も同じだった。わたしは、彼に勉強を教えてもらうふりをして、たくさんの話をした。
同級生の、いわゆる友達にも言ったことのないような、深い話を。
だから先生は、わたしのすべてを知っている。
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