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「少なくともニコよりは歳をとっているように見えます」
「あたりまえじゃん、ニコはまだ三歳だろ」
生まれて三年目で世界の終焉を迎えるニコ。三年前といえば、「世界の終わりまであと」のフレーズが突如として日常となった頃。冗談みたいに聞き流してたことが現実に迫るまでは本当にあっという間だった。
「あなたは何歳ですか?」
「俺? 俺はニコの三人分かな」
「九歳ですか? ……もしかしてあなたもニコと同じアンドロイドなのですか?」
「あと十五くらい足して? それくらい」
「適当ですね」
「必要ないことは忘れるようになってんの、俺、賢いから」
「ニコも、必要がないことは忘れる機能が搭載されています」
「へえ。賢いじゃんバブのくせに」
「けれど、ニコ自身ではそれを動かすことはかなわないのです」
忘れたほうが楽とか、アンドロイドでも思ったりすんの? なんてさすがの俺も訊く気がしなくて、「そっか」と返して大きく伸びをした。
もう日課の散歩をやめて三日経つ。配給に行くこともしていない。我が家にある食料を日数分で仕分けして食いつないでる。まあ、最悪なにもなくなっても「その日」より前に死ぬことはないだろう。
あの日、雨に打たれ倒れていた機械人形が俺を呼んでいる気がして、だからほとんど無意識に連れ帰ってしまった。両足が途中からないとはいえアンドロイドの身体は重く、俺はじいさんみたいに腰を曲げてひいこらいいながらこの部屋に連れてきたわけだけど。
帰宅直後、予想外のことが起きた。
ちぎれて剝き出しになったニコの片足が、内部を雨に晒されたせいで小さな爆発を起こしたのだ。
ばちん、ばぁん、という炸裂音とともに、俺の背後で玄関ドアが大きくひしゃげてただのベッコベコのぬりかべになった。隣の窓は無事だったものの、小さすぎて俺には通れない。反対側の窓を降りたら投身自殺になる。通信端末は一か月前に壊れて、新規契約は受け付けていないと言われて以降、誰とも連絡が取れない状態になっていた。
世界の終わりまであと十日というあの日、俺とニコは文字どおりふたりきりの世界に閉じ込められてしまったのだった。だからなに? 誰か助けてってベランダから叫んだところで、誰が助ける必要があるなんて思うかよって話。叫ぶだけ無駄だって。火が出てほかの住人を巻き込むはめにならなくて済んで、俺たちはラッキーだった。
「おはようございます。世界の終わりまであと三日になりました」とニュースキャスターが言ったら、「おはようございます。世界の終わりまであと三日になりました」とニコが復唱した。毎朝毎朝、本気でニュースキャスターを目指したいのだろうか。
「テレビ切っていい? この顔見飽きた」
シャワーを浴びて戻ってきてもまだテレビを見ているので声をかけると、ニコは見るからにしゅんとした。
「ニコ、テレビが好きなの?」
「あなたはニュースキャスターが嫌いなのですか?」
「は? 俺の話?」
「あなたはニュースキャスターが好きだから毎朝テレビをつけてニュースを観ているのではないのですか?」
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