男子高校生と夏の午後

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男子高校生と夏の午後

「いいともを滅茶苦茶にしよう」  タモリに恨みはないが、そういうことになった。  一九九六年。大輔と岬、健一郎の三人は高校生活最後の夏休みに、なにか大きいことをやってやろうと計画した。事の発端は三人が通う学校の野球部が甲子園に出場したことだった。坊主頭の同級生が突然、街の英雄になったことに感化されて、じっとしていられない気分になった。しかし、運動も勉強も人並み以上には出来ず、バンドも組んでいない三人には、若いエネルギーを向ける先が見当たらなかった。三人で話し合った結果、「笑っていいともに出るのは、甲子園に出るのと同じぐらい凄いのではないか」ということになった。  三人は見た目と実年齢のギャップを競う素人参加のコーナーに目をつけた。日頃毛深いことを気にしている健一郎は、夏休みの間ヒゲを伸ばし、パンチパーマをあてて、うんと大人びて見えるようにしようと決めた。健一郎とは逆に、幼い見た目の岬は、小学生の履くような半ズボンにハイソックス、幼稚なイラストの付いたシャツと麦わら帽子姿でオーディションへ行くことにした。大輔だけは年相応でどうにもならない感じがした。一晩考えた末、身分証を偽装して年齢を詐称することを思いついた。不動産屋で働く父親の従業者証明書を思い出し、それなら真似して似たものが作れそうな気がした。  始めはそれだけの計画だった。しかし、健一郎のヒゲが伸びるのと、大輔の偽装身分証が完成するのを待っている間に、野球部は勝ち続け、「もしかしたら優勝するのではないか」という声が世間で上がりだした。そんなことになれば、いいともに出演しただけでは太刀打ちできないと三人は焦った。  大輔の家に集まって、母校の準決勝戦を見守りながら、「甲子園優勝」の前でも霞まないようなインパクトを残さないとダメだと再び話し合った結果、「いいともを滅茶苦茶にしよう」ということになった。真偽は定かでないが、カツラ疑惑のあった、「タモリの髪の毛を引っ張る」と健一郎は息巻いたが、父、祖父がすっかりと禿げ上がってしまっている薄毛家系の岬が、「それはあまりにも紳士としての品位に欠けている」とたしなめ、代わりに、「放送禁止用語を叫ぼう」と提案した。 「放送禁止用語といっても何を?」大輔の疑問を受けて岬は、 「そりゃ、チンチンだろ」と真顔で答えた。 「チンチンは放送禁止用語ではない」という健一郎の言葉に大輔も同意して、二対一で議論したが埒が明かず、そんなに親しくない、放送部の同級生に電話して尋ねた。受話器の向こうからも野球中継が聞こえて来た。 「変な悪戯はやめてくれ」と電話を切られて、三人は準決勝戦の行方を見守った後、「図書館に行って調べよう」と家を出た。  夏の太陽が少し陰ってきていた。
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