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みんな、うらやましそうにみていた。幼い自分もその一人だったが。
そしたら、温かい腕と広い胸に抱きしめられていた。ベッドに押し倒されて、寝間着の裾の長いシャツをたくし上げる手に「おい」とペシリとたたく。
「この手はなんだ?」
「いや、抱きしめて欲しそうだったのでな」
「俺はそんな大きな子供じゃないし、だいたい、なんで寝間着を脱がせようとする?」
「子供じゃ出来ないことをしようとな」
「このスケベ!」
悪態をつきながらも拒む気はない。体勢をくるりと入れ替えて、男の身体の上にのりあげて、彼の着ている寝間着まで黒のシャツの前を開く。
ちゅっと、男らしいのどのおうとつに口づける。上目づかいにみれば、挑発的な視線で『やってみろ』なんて語っている。
こちらも『やってやるさ』と心の中で返事をして、ちゅっちゅっと口づける。自分より広い肩幅に胸板……いやヴァンダリスだって人界では、そこそこ背も高いし、けして女性っぽく細いってわけではないのだ。
こいつがなにもかも完璧ってだけで、腹が立つと肩口にちょっと本気でかみついてやったら『痛いぞ』とばかり、ちょいちょと金の髪の毛を一房ひっぱられた。少しついた歯形をなめたら、息を呑んでたくましい胸が上下した、ざまあみろだ。
腹が立つ胸板に口づけて、これまた腹が立つ理想的にくっきり割れた腹筋の筋を舌でちろちろしてやる。へその形までいいなんて、ずるくね?
それから、手でしごいてやったら、すぐに元気になった先端をぱくりと口に含む。上目づかいにみたら上半身を軽く起こして、紫の目が見開かれていた。
そういえば、くわえるの初めてだったけ?とヴアンダリスは思う。まったく抵抗なかったが、同じ男なんだけど俺は終わってないか?と思う。いや、こいつだからか……という小っ恥ずかしい考えはすみにおいやり、口中のものに集中する。
先をくるくると舌で舐めて、それから唇でしごいて、根元は指で……って、この手順、自分がこの男にやられているの思い出してないか?という事実に、ちょっぴり切ない気分になる。いや、別に未経験って訳じゃない。男はこれが初めてだし、たぶん、この男が執着してるあいだ、他の男や女に目移りしたら、これが本当に魔王になりそうで、怖い。
そんなこと考えていると、口中ものが大きくなった。おい、まだ大きくなるのか?これ普段、俺の中にはいってんの?と思うのと同時に、ずくりと下肢がうずいた。
触ってないのに舐めてるだけで、自身が緩く立ち上がってるのがわかるし、さらに言いたくない場所までうずいている。ああ、ここまできちやったか?と思いながら、男を口にふくんでいる時点で、いまさらか……と開き直ることにする。
宙に手を伸ばして、自分の魔法倉庫(マギ・インベントリ)から、魔界の薬草園、薬長(やくおさ)ロノウェ特製の香油の小瓶を取り出す。寝台脇のチェストの上にも置いてあるんだが、そこまで手が届かない。
なんで、ヴァンダリスの魔法倉庫にそんなもの放りこんであるって、念のためだ!念のため!アスタロークが忘れる時だってあるだろうし。
親指でコルクの栓をぽんと抜いて、尻のはざまにたらす。指で香油をからめとって、ひくつくそこをなぞってから、つぷりと一本。
あんがい、簡単に入るもんだなと思う。それは香油のせいだと思いこんで指を動かす。口もしないとと動かしつつ、指の動きもアスタロークがしてくれたように、イイ場所をなぞると背筋がぞくぞくする。あ、これやばいかも……。
と思った瞬間に、両手で顔を包み込むようにあげさせられて、さらに向かい合わせに抱きあげられて、男の膝へと。自分の後ろをいじっていた指も抜き取られて「ひゃっ!」と声をあげた。
「いきなり、なにっ……んんっ!」
そしたらさらに香油をたされて、代わりに男の指が入りこんできた。いきなり二本だけど、先に自分の指がはいっていたから、痛みなんてない。どころか抜き差しされて息があがる。
「お前のほうこそだ。私の身体を使って一人遊びを始めるとは、悪い子だな」
「まだ、子供扱い……ふ…くっ!あぁぁァア!!」
「子供にこんなこと出来るか?」となかをかき回されながら言われて、そりゃそうだと思った。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
情事のあとのけだるさに、とろとろとした眠りに落ちかけながら、長い指が自分の髪をすくようにする感触が好きだな……と思う。
ああ、これもそういえば……。
「頭をなでられたこともなかったな」
ぽつりと言えば、それが子供の頃とわかったのだろう。アスタロークが「そうか」と返して、少し汗で濡れた前髪をかきあげて、ひたいに一つ口づけられる。
まるで眠りについた子供に親がするみたいに。
「あんた、俺の髪、好きだよな?」
「黄金の髪は魔族にはないからな。だが、髪だけではなく、私はお前の姿もこの中身も好ましいと思うぞ」
「……だから恥ずかしいこと言うなって……」
とりとめもないことを話しながら、すうっと眠りにつく。
今は、自分の頭を撫でる大きな手も、抱きしめる腕もある。
とても温かかった。
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