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と、言ったものの。
学校が終わって放課後になる頃には、僕の頭もすっかり冷えていたわけで。実際そのイヤミなクラスメートを連れて家に帰るころには、やめたくて仕方なくなっていたのだった。
「家の外で見ててやるからな、ちゃんとやれよな!」
そう言って門の前で待機する彼を置いて、僕は重い足取りで家に入っていったのだった。母や祖母に挨拶もそこそこに、大抵彼女がいるはずの縁側へと向かう。今日は悪戯をするつもりがないのか、彼女は縁側で膝をぶらぶらさせて座っていた。
「あ、あのさ」
僕が声をかけると、彼女はびっくりした顔で振り返る。いつものようにすぐ隠れてしまうかと思いきや、僕の顔が暗いことに気づいてかじっとこちらを見つめるだけに留まった。
――お、怒らせろって言われたって。僕、この子のこと全然知らないし……というか、そんなことしていいのかな。
何かを言いかけたまま、黙り込む僕。彼女は何を思ったのか、僕の傍にちょこちょこと近づいてきて――そっと僕の頭に手を置いたのだった。撫でてくれるつもりなのだろうか。そう思うと、じわり、と視界が滲んでくる。元より、子供の頃の僕は泣き虫で、どっちかというと引っ込み思案だったから尚更だ。
僕はついつい、ぽつりぽつりと今日学校であったことを彼女に話していた。君の存在を信じて貰えなかったこと、馬鹿にされたこと、怒らせてみろと挑発されてどうすればいいかわからないこと。
「……でも、僕、やっぱり友達に酷いことできないよ。悪口も思いつかないよ……」
そこまで話して顔を上げた時、既に彼女の姿はなかった。足音はしなかったから、怒って飛び出して行ったわけではないだろう。いつも通り消えてしまって、どこかにいってしまったのだとわかった。怒るところまではいかなくても、不愉快な思いはさせたに違いない。
まるで自慢の道具のような扱いをされて、いい気分になるはずがないのだ。次に顔を合わせたら、ちゃんと謝らなくちゃいけないだろう。それが今日中か、明日になるかはわからないけれど。
「なんだよ、やっぱり座敷童いねーんじゃん!嘘つき!」
当然ながら、イヤミ男子には思いきり笑われることになり、僕は半泣きのまま、家に出戻ることになったのだった。
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