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ざしきわらし。
田舎には、昔ながらのあやかしがたくさんいる――というのは本当のことなのかもしれないと思う。
小学生の頃、地元の小さな町で育った僕は、ほんの少しだけそれっぽいものが見えていた。その地域が特別だったのか、それとも僕にそういう能力があったのかはわからない。僕に見えていたのは、主に小さな女の子のあやかしだった。子供の頃は祖父母と同居していてちょっと大きな日本家屋に住んでいたのだが、その縁側あたりにいつも小さな女の子がちょこんと座っていたのである。
悪戯好きだったのだと思う。縁側に座っていない時は、大抵誰か(主に僕)を驚かせるタイミングを待っていたようだ。縁の下から突然顔を覗かせて僕をビビらせたり、はたまた天井から突然降ってきたり。白い着物を着ていて、黒いおかっぱに黒い髪、ふっくらとした頬をしたとても可愛い女の子だった。日本人形みたい、とでも言えばいいのか。小学校低学年くらいの見た目で、僕は最初あやかしだとは思わず遊びに誘ったものである。
なんとなく“この子人間じゃないのでは?”と思うようになったのは、彼女が一言も喋らないからと、僕が声をかけると恥ずかしそうに頬を染めてどこかに消えてしまうからだった。
「それは座敷童ちゅうもんやな」
あの子はなあに、と尋ねた僕に、お祖父ちゃんは嬉しそうに言った。
「大事にせなあかんよ。この家を守ってくれる、守り神様やから」
「まもりがみさま?かみさまなの?」
「かみさまか、あやかしか。いずれにせよ、人間よりも格上の存在やね。最上家の平和を守ってくれる存在やな。座敷童がおる家は栄える、災いから守られる。せやから、自分も大事にせなあかんで。まあ、その様子やと、真琴は座敷童に好かれとるんやろうけどなあ」
ちなみに、最上というのが僕の家の苗字、真琴が僕の名前である、念のため。
「ふーん……友達になれるのかなあ、ざしきわらしって」
僕の認識はその程度だった。可愛い女の子だし、仲良くなれたらいいなあ、くらいである。
「はあ?座敷童だぁ?」
さて。再三になるが、僕は当時小学生である。ちょっとしたことでも誰かに話したり、あるいは自慢したりということをしてみたい年頃だったと言えばいいだろうか。僕の家には、幸運の神様がいるかもしれない。それが可愛い女の子の姿をしているなんて、わくわくする話である。ついつい、クラスメートの男の子に自慢めいたことをしてしまったのは、ある意味仕方ないことだったのではないだろうか。
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