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親の初対面
元警察庁祓魔課の再見 親子のアウフヘーベン編
現在の日本の警察機構の巨頭である、東京警視庁警視総監である諫早公彦は、空虚さを抱え、妻の静江とイギリス旅行を満喫し、帰国の途についていた。
ヒースロー国際空港のターミナルからファーストクラスのゆったりとした座席に腰を下ろし、空を舞い上がったジャンボ機は、諫早夫妻に快適な空の旅を約束していた。
ロンドンツアーを決めたのは、やっぱり。
莉里タソ。大きくなったなあ。今小学生か。
孫に会いたくなった。矢も盾もたまらずロンドン公演のチケットを買った。
エコノミーが普通だと思ったが、駆け込みなのでファーストクラスしか空いていなかった。
何で会わせてくれないんだ真琴。
憎い男にかっ拐われた一人娘のことを思った。
ジージが孫に会いたいのは当然だろうが。
静江にしてみれば、顔を見せないのはいつものことだという。
仕事にかまけて、そんな娘のことすら把握していない不実な父親だと、静江の目は語っていた。
言われる筋合いはない。浮気したのはお互い様だと思う。
大体静江が浮気したのは義理のーー。
物騒な回想は、絹を裂くようなCAの悲鳴でかき消された。
足が向いたのは、体に染み付いた職業意識の為せる業だった。
「何が起きた?!」
震えて指を指すCAの姿があり、それを見て、諫早は、それを発見した。
生死を確認する必要はなかった。
丸まるように固まった両手足首は切断されていた 。
「これは明らかに殺人事件だ。確か、国際線の機内で事件が起きたら」
「旗国主義の原則によれば、イギリスの法機関に任せるもんだ。大人しくしとけ。俺達は空の旅を満喫だ。ママちゃん。ママちゃん!」
物凄い頭の上から言われた。
とても歯切れのいい、流暢なキングイングリッシュだった。
立っていたのは、ロールモデルのような英国紳士風の老年の日本人だった。
しかもママちゃんて。
「貴方が誰かは知らないが、目の前で殺人事件が起きているのに、知らぬ顔は出来ない。日本警察の誇りが、私にはかかっているのでね」
ふうん。男はそう言った。
「どこのアホタレと思ったら日本人か。誰だお前は?」
本当にムカっと来て諫早は言った。
「私は諫早公彦!誇りある日本警察は警視総監である!逆に問おう!貴方は何者だ?!」
「俺が誰かなんてどうでもいいだろうが諫早。そんなんだから商工会の会合の帰りにお水と浮気するんだ。対面座位で」
「や、やめろおおおおおおおおおおお!15年以上前の浮気を今でも責められる男の気持ちが解るかああああああああああ!」
うん?何かを感じ取ったのか、そいつは口調を和らげて言った
「昔のことをいつまでも責められるのは辛いな。そうなった時の男の言動なんかノーカンだし。まあいいや諫早。お前に免じてさっさと解決してやろう。ふうん。それが遺体か」
死体を見下ろし、そいつは言った。
「出血死だがタイミングがおかしい。これは本来、もっと遠くで発見されるべきだったようだ。スッチーが勤勉すぎたな。ああ君か。見つけたスッチーは」
「い、いえ。キャビンアテンダントです」
「そんなのは知らん。スッチーはスッチーだろうが。ああつまり」
バツンと音を立て、死体の首が飛んだ。
「な?このタイミングだ」
そいつはそう言った。
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