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酷く珍しい、流紫降の長台詞があった。
勘解由小路降魔。それは、静江にとって忌まわしい記憶だった。
こっちに座って。あんな浮気親父は放っておけばいい。浮気された方は堪ったもんじゃない。そうなったらどうする?警察機構の上層部にいる人間にとって、浮気は大変なスキャンダルだ。大っぴらにする訳にもいかない。かといって浮気相手の女を責めることも出来ない。そういった悔しい思いをどうやって晴らそう?なら、答えは簡単だ。こっちも浮気すればいい。幸い男はここにいる。女が欲しい時、男はどうする?こうするんだ。勘解由小路静江。
触れた唇。侵入してきた舌。
よく解らない内に、静江の中には、夫とは比べ物にならない大きさが。
片手で器用に服を脱がされ、胸に這い回る舌の心地よさ。
そのまま、3回勘解由小路は静江の中に。
最後に聞いた最低男の言葉は、「ああああ。やっぱり経産婦最高。おっぱいといい堪らん。ああ静江もう一回」だった。
暴露されたのは、よりによって娘と勘解由小路の結婚式。
男ってのはそういう時は仕方ないんだ!そういう時の男の言い分なんかノーカンだ。
ここまで最低な新郎がいるのか。って言う話だった。
それ以来、真琴から一切連絡はなかった。
流紫降の話を聞く限り、真琴はあいつを愛しているらしい。
信じられない。あんな最低男。
「思えば、父さんは常にどこか母さんに引け目を持っていた気がする。僕は子供だからよく解らないけど、きっと、浮気をした父親はそういう態度をとり続けるんだと思う。浮気は罪で、はっきりと罰せられない限り、その罪は消えない。なら、お婆ちゃんもまた」
そう。私は過ちを犯した。
よりによって、娘を妊娠させた男と、車の中で。
先に判明したのは、警察官僚の夫。
しかも、娘は彼を愛しているとは思えなかった。
ここまで状況が揃っていて、拒める訳ないじゃない。
でも、そんな話をこの子に出来る訳がない。この子は、まだほんの小学3年生よ?
「僕には言いづらいでしょうが、母さんならきっと、聞いてくれますよ?きっちり話し合えれば、きっとスッキリしますよ?」
「でも、あの子は」
あー。流紫降は思い出したように言った。
「父さんじゃないけど、母さんのお腹の中にいた頃の記憶は僕にもあります。あれはいつのことだろう。僕が大分大きくなって、碧ちゃんとしりとりしてたんです」
え?生まれる前の子供が?しりとり?
「普段は、中々終わらないんです。変な名前の偉人編に突入すると特に。バカカ・コイツァーとか南冲尋定とか出されると凄く困るんです。まだ生まれる前で、目も開いてなかったから、南冲尋定で押しきられたんです。生まれた後、それが実在しないって知って、碧ちゃんにそう言ったら、「ああそうか。だったらTPP言えばよかった。パパが口にした言葉は覚えてるんだがな。TPP?タオ・パイパイに決まっとろうが」って言われて何も言えない無惨な気持ちになりました」
どうしよう。何て言えば。静江の戸惑いをよそに、流紫降は続けた。
「その日に限って、碧ちゃんは黙りこくったんです。お腹の外でゲスゲス言ってたから小鳥遊さんだね?彼女じゃないけど、その時、碧ちゃんは何かを察知してたんだと思う。ボソッと気を付けろって言った。僕は碧ちゃんの言葉を信じて、身を潜めていた。やがて、妙な、南部訛りの英語が聞こえて、母さんが魔女として処刑されようとした時、父さんが助けに来たんだ。母さんは凄くドキドキしてて、ああ、そこで、母さんは、父さんを好きだと言ったんだ。多分、妊娠半年以後だよ。母さんが、父さんにドキドキしてたのはその前からだったけどね。母さんが父さんを好きで好きで堪らないのは、僕達がお腹にいてしばらく経ってからだった。緑くんとは、そこが違うんだよ。お婆ちゃん、緑くんを渡して」
不思議な拘束力があった。あれだけぎゅっと抱いていた緑を渡してしまった。
静江が知るよしもない。絶対命令。流紫降が持ち得た、冥王から受け継いだ力の表出だった。
愛おしそうに弟を抱き、頬ずりして言った。
「緑くん、何があったの?」
「うっきゃあ!にーに大しゅきだじょ!昨日のパパのいい匂いがするじょ!正直べーはパパのパパママには関わらんじょ!それより大事なことをするじょ!べーは愛に生き愛に死ぬんだじょ!ちらとい!行くじょ!」
恐ろしい現実が起きていた。可愛くてしょうがない赤ちゃん、孫の緑は、けったいな鳥の背中に乗っていた。
「パパはチーパパになってるじょ!大きくなったパパに会いたいじょ!トキはママとチーパパ取り合ってるじょ!漁夫の利だじょ!まさにだじょ!たまさかに得た好機でパパのママはチーパパを求めてるじょ!」
赤ちゃんがたまさかにとか言っている。
「じゃあ行くじょ!のいのい!のいのいはべーのお嫁ちゃん!」
緑は飛んでいってしまった。
「何とも言い難いことだけど、父さんにも何かが。お婆ちゃん、一緒に来た父方のお爺ちゃんとお婆ちゃんについて教えて」
有無を言わさぬ様子で、流紫降は言った。
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