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蛇と狐
あたかも神が住む、神界もかくやという隔絶された空間で、真琴とトキは死闘を繰り広げていた。
「よくも蹴っていただきましたね。おっぱいだけのヤンデレ蛇の分際で」
「蹴り足りないならあと1000発ほど蹴ります。降魔さんに執着しすぎなストーカー狐ババア」
真琴は、当然のようにイヤリングを外した。
髪が腰まで伸びた、女神が降臨していた。
「小さい頃の降魔さんを見事に誑かし、小児虐待ならまだしも、こともあろうに降魔さんを私から奪い去るとか、おこがましいにもほどがあります。遺作?その妄言を貴女の遺言にしてやりましょう。蛇の目を見ろ貴様」
「そのクソバッチい蛇の目を見る価値があると?それこそ妄言でございます。我が眷属の声を聞け」
膨大な数の獣に囲まれていた。
トキの家紋が書かれた提灯を掲げるのは、沖津と根来だった。
「いらっしゃい。私を讃えよ獣共。ハデス様の令に背くか。狐」
「最早止まりません。これはトキの一生に一度の最高の好機。坊っちゃまはお前様なんぞに渡しはしません。怨敵調伏。オンダキニギャチギャカニエイソワカ」
獣達の唱える真言が、重低音で唸りを上げる中、トキと真琴のガチ喧嘩は始まった。
その時、勘解由小路焔魔は周囲を見回した。
「ママちゃん。か?やったのは。ここは、どこだ?」
「教授はここに落とされました。奥様の手によって。魔上皇レベルの人間を操作したのですから。今はそれにつきっきりですから。貴方は、後回しにされていたようです」
「ほほう。そうか。それで?助手、俺はどうする?これ以上ママちゃんを怒らせたくないんだが。前の浮気は完全にバレている」
「ならば、大人しくしていればどうです?魔上皇はいずれ時を喪失し、赤子に戻ります。赤子を育てるには父親が必要です。恐らく、貴方も若返ります。魔上皇を、もう一度育てるのが奥様の望みなのです」
スラスラと淀みなく言う助手に、焔魔は少し黙考した。
「よく解らんが、まあいい。魔上皇ってのは降魔のことか。2歳児が今は赤ん坊か。今まで、俺の周りにはけったいな事件が多かったんだがな。完全に有り得んと思っていた。そういう世界ってのはな。今後もそうに決まってるが、今回だけ。今回だけ認めてやろうオカルトを。そうだろう助川。お前、助川と言っているがな。本当は違うんじゃないか?今までのお前の全ての言動を考慮してみよう。きっと答えは解る。そうだろうウコバク。いや、それがフェイクだ。お前のシルクハットな。隠し持ってたろう。俺の友達のロックハートの奴が言っていた。お前の本当の名前は、メフィスト。メフィストフェレスだ」
助川の姿が、一瞬で変わっていった。
広げたマントの裏側に、猛禽類の羽根がヒラヒラと舞っていた。
メフィストフェレス。
ゲーテの「ファウスト」で、初めて明らかにされた悪魔だった。
「じゃあメフィスト。俺の魂をくれてやる。ママちゃんを止める」
おお。ついに。お認めになられるか。
「魔の扉はここに開かれり。時よ止まれ」
「ママちゃんは美しい。ホントに。文句あるかお前」
「凄い台無しですな」
メフィストは、凄い間抜けな顔をしていた。
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