親の初対面

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CAに酒を用意させ、そいつは座席にふんぞり返っていた。 何だろう。ふんぞり返り具合に凄い見覚えがあった気がした。 「手口自体は実に単純だ。あの小僧、確かヴィンセント・エルプスタインだったな。そいつの因果応報的な末路は、起こるべくして起きていたことになる」 エルプスタインの名前に覚えがあった。確か合衆国でも有名な億万長者だった。 「それは、どういう意味かね?」 「まずもって被害者は加害者でもあった。こいつの家はデトロイトにあった。デトロイトのビリオネアとして名高かった小僧の父親は1週間前、首を斬り飛ばされて死んでいた。FBI(ビュロー)の捜査をかわし、小僧は意気揚々と旅を楽しんでいた。1週間前にお呼びがかかればよかったんだがな。要するに、父親殺しの手口が解った。アリバイがあって当然だった。何かけったいな力を持ったバンドだ。それを手足と首に巻いた。それであの小僧は死んだ。ただそれだけだ。小僧はただのロクデナシで、外聞を気にしてチャリティーなんかに手を出していたが、父親の覚えは悪かった。放漫財政で経営は斜陽し、父親は援助を断っていたらしい。つまり遺産の搾取の犠牲にされたんだ」 突然始まった長台詞があった。 「動機は理解したのだが、具体的な凶器は何なのだね?やはり昨今珍しくない怪奇事件ではないのかね?」 「怪奇なんぞこの世に存在せん。多分、ハイチ辺りのくだらん呪いだろう。カッコだけの三問芝居だ。ん?どうした助手。諫早、こいつは助手だ」 何か、腹にイチモツありそうな助手は、携帯の写真を見せて言った。 「被害者の背後にはオウンガンの存在が。渡されたブレスレットにアンクレット、ペンダントはハイチの被災者の子供が作ったものでした。SNSには、それ等を身に付けた不快な笑顔の写真が。ダンバラです教授。悪霊(ロア)の霊気を受けた拘束具を、知らずに身に付けていたのでしょうね」 「霊気なんぞ有り得んだろうがお前は。ボコールだと?多分ボコりたかったんだな。あの小僧は性的に奔放な奴だった」 「教授。ボコールはボコーるではありません。それはただのゾンビ使いです。ブードゥー教の神官はオウンガンですが。どうせ覚えてないから言いますが、ダンバラは蛇身の神でブードゥーの最高神です」 「ナンセンスだぞ助手。ブードゥー教なんぞ知らんしどうでもいい」 男はにべもなかった。 「ダンバラは、エルズリーの夫ですよ?アグウェとオグンの夫でもあります」 「そんな重婚女は知らん。どうせどっかで托卵でもしてるだろうな。ホントにいればな」 世界中で怪奇な事件が氾濫する中で、頑なに怪奇を否定する男の姿があった。 「とりあえず最後まで聞いてください教授。殺されたヴィンセント・エルプスタインは、経済的に困窮する中、オウンガンと出会い、呪殺の為のネックレスを入手しました。同時期、性に奔放なヴィンセントに恨みを抱いた何者かは、同じロジックで作られた、地震の被災者の子供が作ったファンシーなアクセサリーを入手、ヴィンセントを殺害する機会を狙っていました。犯人は一緒にいた人物です。事業のビジネスパートナーです。既に捕まえておきました。待ち合いロビーのラウンジにいましたので」 「ほう。愛人は愛人でも、男じゃないか。そうか、そう言う性癖の奴だったんだな」 「と言うか、いつ捕まえたのか?」 「突然背後から!ヴィンセントの奴が乗り込んだんでほくそ笑んでいたら!」 「教授の身の回りの怪奇事件は座視出来ませんので。さっさと捕まってください」 「妄想もいい加減にしとけ。ブードゥーパワーで殺人などある訳ないだろうが」 「魔上皇后の父親様!こんなジジイは放っといて犯人の逮捕を!全くこのオカルト否定馬鹿は!」 よく解らないまま、高度3万3千フィートで起きた殺人事件は解決した。
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