母の妄執

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空から襲いかかるダブルおっぱいに、露香は何の痛痒(つうよう)も感じていなかった。 真琴とトキが蹴ったのは、目障りな母親なんかじゃなく、巨大な、真紅の獣の体だった。 「ホントに癪に触る嫁と乳母ねお前達は。お前達がそう言うのをお望みなら、別にあげてもいいのよ?」 「ほう。これがお袋の姿か。大丈夫かお前等。ちなみに、こいつの名前は言えないことになっている」 赤ん坊勘解由小路が言いたいことは解った。 7つの頭を持つ巨獣に乗った、邪悪な女の姿があった。 「大淫婦バビロン!」 「ハーロットなお母さんですね」 「だから言えんのだって。大淫婦バビロンは黙示録に出てる化物の1種だ。まあ世紀のけったい作家ヨハネが生きてた頃、お袋は普通に生きていた訳だが。うお!」 勘解由小路を抱き上げたワルプルギスは、汚れた杯を持った、赤いドレスを纏っていた。 「殴り合いがしたいなら与える。獣に頭を垂れよ。ああ可愛い坊や♡ママは逆らう者を容赦しない。坊やはもうママに逆らわないわよね?造物主(ヤハウェ)が恐れたバベル。バビロンは私を認識した連中がそう呼んだ幾つもの姿の1つ。生きていたのはスターレスくらいであろう?所詮はつい昔の下々の()り出した恐怖心に端を発する物差しでしかものを語れぬ蒙昧が、私に敵し得ると思うか?身の程をわきまえよ」 露香の騎獣が吐き散らしたブレスが、居間を吹き飛ばしていった。 「恐ろしいババアだな。癇癪起こして居間を消し飛ばしたか。トキ!大丈夫か?!」 碧が言った。 「何のこれしき。坊っちゃまをお救い奉ります。よろしいですね?奥様」 トキは殺る気だった。 「そうですね。ここを代々木公園にします。おい、この蛇を見ろババア。降魔さんのオス蛇ちゃんは妻である私のものよ。冥府がお前には相応しい。我が前から消えよ魔女」 足元をミントで繁らせ、冥王妃プロセルピナは、恐ろしい霊気を振り撒いていた。
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