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おおマジか。大魔女と女神がガチでやり合うのか。
それでそれが母親と嫁の嫁姑の諍いとはなあ。
どこまで非常識なのか。うちの家は。
「パパああああああああ!ベイビーパパハグユーなのよさああああああああああ!」
「パパは婆ちゃんに捕まってるっていうか抱かれてるっていうか。嫁姑戦争は神話クラスの世界戦争になってる。星無。どうなってる?」
「魔女と言う存在に共通しているのは、世界の改変よ。前に私やバイオレットがしたように、不要な存在は彼女の世界では消えてしまっているの」
星無以外の人間が存在しない町。
テチス海に沈んだパンゲア大陸。
勘解由小路家の人間以外が存在しない世界。
確かに大魔女だった。
見ると、星無は元より、勘解由小路の子供達の回りには、無限に増殖した終末の獣に囲まれていた。
「凄いアポカリプスだな。ドラッグオンドラグーンの最悪なエンドみたいになりつつあるな。赤ん坊でない分救いがあるが」
「碧ちゃん、僕に全エンディング見せてくれてホントにありがとう。鬱ゲーという概念を僕はそれで知った。危ない」
傾世元禳がたなびき、祖父母と兄弟を纏めて破壊から遮断した。
「父さん!僕達はどうしよう?!」
「おお!鬱陶しい終末のババアをぶん殴っていいぞ!」
了解。異口同音にそう言った流紫降、碧、莉里の目が据わった。
獣のブレスを薙ぎ散らして、流紫降は叫んだ。
「莉里ちゃんはお爺ちゃん達を守って!碧ちゃん!」
「みなまで言うな行くぞ!影山!」
六魂旛が獣を切り裂き、ヤモリ妖魅男の影山黒男のアルコルハンマーが、獣の頭部を粉々に破壊した。
その時、恐ろしい雷光が空を引き裂いた。
「勘解由小路!この有り様は何だ?!」
現れた島原雪次のおじさんは、夏帆ちゃんを抱き、真帆ちゃんの手を繋いで立っていた。
「どうなっている?!世界の終わりがお前の家を中心に起きている!」
「あれは?」
母ちゃんが言った。
「俺の友達の島原だ。よう!眼鏡母ちゃん休暇中で、娘連れて動物園に行こうとしてた父ちゃん。ポインターを向けるな俺に」
いつものやり取りを終えて、島原は言った。
「赤ん坊?お前が?」
「おう。今、恐怖の母ちゃんが癇癪起こしている」
「とすると?今回の危機は?」
「ああそれな?そりゃあ俺のお袋の所為だった」
「何なんだ本当にお前は?!」
獣の一体を雷で貫いて島原は叫んだ。
勘解由小路露香は更に癇癪を起こしていた。
「消えるはずなのに。何なのお前は?!」
「島原課長は、降魔さんの親友ですよ。降魔さんが大学時代からの。創造神ヤハウェ譲りの雷光の使い手です。いくら魔女と言えども貴女の手は届きません」
7つの首の一本を引き千切って真琴は言った。
「坊っちゃまは、ご友人関係も決して誤りません。奥様の知る友人もそこに」
扇で首を切り裂いてトキは言い、紅蓮の火球が、空から降下する獣を撃墜していった。
「隣近所の迷惑を考えろおおおおおお!勘解由小路いいいいいいい!!ってげ!おばさんじゃねえか!若いし!勘解由小路!何で赤ん坊に?!」
「銀さんちの、まー君?」
よくうちに来ていた子供だった。
「正男。今回はマジで危険だ。お袋を怒らせるとこうなる。ガキの頃にこうならなくてよかった」
「おばさん怒ると世界が滅びかねんてよっぽどだな!ハナちゃん梨花と美味しいスイーツ巡りするって言ったらハナちゃん凄いご機嫌だったのに。お陰で見ろ」
正男が指差した先が、極低温まで冷えていた。
恐ろしいブリザードが荒れ狂う中、激怒したメイド母ちゃんが荒れ狂っていた。
「許しもせん。悪い獣は滅べ」
涼白氷花は激おこしていた。
「じいちゃんばあちゃん平気なのよさ?」
滅魂の鬼火で周囲を囲った莉里は、腰を抜かしていた祖父母を見て言った。
「な、何だああああああ?!空から!雨粒が如き化物の群れが!静江ええええええ!私の手を!でないと怖いからああああ!」
「まあそう言ってるけど、じいちゃんはばあちゃんが大好きだってのは間違いないのよさ。ツンデレパパが常態で、つい行きすぎただけなのよさ。夫と心を通わす最後のチャンスなのよさ。夫婦のフリを続けるか、本当の夫婦に戻るのか、選ぶのよさ!」
静江。そう言う諫早のガタガタに震えた手。
浮気をされて傷付き、浮気をし返して尚更傷付いた。
もう一度、信じるの?彼を、公彦君を?
ガタガタに震えながら、静江に近づいてくる。
その手は、あの時と同じ。初めて彼と付き合った頃のデートと同じ。
ツンと上を向いた彼の鼻、プライドが高く自信家で、曲がったことが大嫌いで。
お腹を痛めて生んだ娘を抱いて、静江の中には言葉に尽くせぬ愛が、娘に、そして、警視庁の管理官になった公彦さんにも。
静江が伸ばした手を、諫早は強く握り、庇うように強く抱き寄せた。
「う、うおおおおおおおう!莉里タソおおおおおおおおおおお!やったおおおおおお!」
「よし。災い転じて福をなすなのよさ。おじさん!フットワークもっと軽くするのよさ!真帆ちゃん!夏帆ちゃん連れてこっち来るのよさ!莉里に任せるのよさ!」
夏帆を抱いた真帆が駆け寄り、巨大な腭が、夏帆ごと真帆を食らおうとし、そして、
獣が纏めて塵と消えた。
「あーー流紫」
巨大な闇があった。
真帆は、流紫降に目を向けたが、真帆の観察眼をして、流紫降の全景は闇に没し、明確な像を描けなかった。
「真帆ちゃん。ごめん。僕は」
闇の中から、囁くような声が聞こえた。
何よりも小さく、されど、何よりもはっきりした声が。
「頭に来たよ。僕は」
冥王ハデスの長男は、激しい怒りを、無数に湧く獣に向けていた。
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