母の妄執

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膨大な数の獣が、纏めて塵と消え、両断されていった。 「流紫降激怒展開か。なあ影山、私が獣にイヤーンされたら、お前はどうする?」 「状況を考えろおおおおお!数が多すぎて手いっぱいだというのに!」 「確かに。杯ぶら提げた婆ちゃんがいないだけで獣は獣だしな。ここまで終末やって来いって世界はなあ。おっと!」 纏めて放たれたブレスが、碧を吹き飛ばそうとした。 「ヤバい。流石に死ぬかもな」 六魂幡でくるんでいたが、衝撃の圧力で押し潰されようとしていた。 「お嬢様ああああああああ!邪魔だ!どけ!お嬢様があああああああ!」 碧は、傾世元禳で守られていた。 「碧!大丈夫か?」 「おお流紫降。六魂幡は防御にちょっと難があるな。攻撃は最大の防御なんだがな。大体何かおかしい。パパは気づいたかな?」 碧はそんなことを言った。 勘解由小路露香の連れた獣は特に強力で、トキと真琴のコンビは攻めあぐねていた。 斬り飛ばしても、引き千切っても、無尽蔵に復活する獣の首が、2人を覆い、絞め殺さんとしていた。 「これで解ったでしょ坊や?ママに勝てる訳がないのよ。ママの言うこと聞くって誓うんなら、獣を引っ込めてもいいのよ?」 恐ろしく傲岸に、露香は言った。 赤ん坊勘解由小路は、一息吐いて言った。 「そういうもの言いは明らかに俺の母親だと認識するしかないな。確かにあんたは俺のお袋だがな。だからこそ譲れないものってのはあるんだ。見ろ。お前が作り出したろくでもない世界で、俺の家族が、友達が戦っている。頼もしい連中だろう?俺は誇りに思っている。莉里は諫早夫婦と島原の娘っ子達を守り、碧と流紫降はお互いをカバーし合いながら果敢に戦っている。正男夫婦は言うに及ばず、島原なんか一体何体倒したのかも解らんほどだ。あんたは大魔女(ギガンテスト)なんだろうがな、とっくにあんたの息子はこの世界に新たな絆って奴を紡いでいるんだ。なあ?そろそろ俺を解放してくれないか?さもないと」 空を埋め尽くしていた全ての獣が、パキンという音と共に消失した。 「うちの坊主があんたを酷い目に遭わすぞ」 あん?戦ってる正男や島原が天を見やると、そこには、羽ばたく白鳥が如き悪魔の背に乗った赤ん坊が、眼鏡を外していた。 「出れたじょ!べーはのいのいに会いたいだけなんだじょ!邪魔するばーばはじゃんするじょ!じゃあああん!しゃー!」 蛇っ子坊主は蛇の威嚇音を出していた。 「1人だけお袋の魔法領域が通用しない坊主がいたんだった。緑!父ちゃんが田所連れてきてやろう!だから父ちゃんを見ろ!」 え?露香はそう言い、緑は言った。 「チーパパ困ってるじょ!パパを助けるじょ!情けはべーの為ならずだじょ!べー心あれば水心だじょ!だからのいのいを!のいぱい!のいぱい!パパみー!」 な。呆気にとられた露香は、おっさんを抱く羽目になった。 無効化され、消え去った魔法の向こう側で、冥王ハデスは、ピアスをむしり取っていた。 もうすぐ、勘解由小路は母ちゃんに打ち勝とうとしていた。
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