逆転の魔上皇

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逆転の魔上皇

一瞬で、母親の横にいた獣を消し去って、冥王ハデスは言った。 「ああ面倒なお袋だな本当に。自由にさすとこうなるんだな。おいで。マコマコ。トキも」 「パーパ!べーは?!」 「じゃあいいや。白鳥さん落っことせ。おお可愛い坊主だお前は」 キャッチした緑に頰ずりして言った。 「うきゅううう!大しゅきだじょパパ!ママは?べーしゅきか?」 「勿論大しゅきですよ?緑くん」 緑をおっぱいで包んだ真琴と甘いキスを交わしていた。 「今回はびっくりしたぞ。赤ん坊に戻っちまうとは思わなかった。俺のお袋は気紛れでこういうことが出来る人間だったんだな。だが、あんたの息子として生まれた俺は大人になり、やがて結婚して子供に囲まれるようになった。流紫降と碧の双子。莉里。そして緑だ。全員愛してるぞ。父ちゃんとこ来いお前達」 まだ群がっていた獣と交戦中の子供達を空間を越えて引っ張り出した。島原姉妹と諫早夫婦を結界で守るおまけ付きで。 「ああ父さん」 「突然何だパパ」 「ああああああ!大好きなのよさ大人パパあああああああああ!ママには渡さんのよさあああああああああ!」 「緑にはあれだな。望みを叶えてやろう」 更に空間を越えてを引っ張り出した。 「うっきゃああああああ!のいのい!パパ大しゅきだじょ!のいのい!のいぱいをくだちゃい!」 「ああああああ!あんたんちにろくでもない終末の獣が群がってたから隠れてたのにいいいいい!っておっぱい触る?!この局面で!」 「のいぱいは全てに優先される喫緊の問題だじょ!ピンク色のはさながら清浄な恒河(ガンジシュ)(みじゅ)のごときゅべーのリビドーを浄化していくんだじょ!のいぱいがいっぱい嬉しいじょ大しゅきだじょ!」 喫緊、さながら、恒河(ごうが)、リビドー浄化。 生後8か月とは思えない語彙力だった。 「まあいいわよ。その、ああ名前言えないのが敵?静也いないけど来い。百鬼丸」 背後に現れた式神にそう言った。 「て言うか、静也がいないんで探そうと思ってたんだけど。終末来てたってことは消した?私の彼氏を。五火神焔扇を食らえ」 赤ん坊を抱いたまま、周囲に紅蓮の炎を勧請した。 ぎり、ぎりり。 また女か。まさか愛人の類い? 露香の歯軋りが聞こえた。 「呼ぼうと思えばまだいるぞ?女は。ガイアにエラル、それにーーああ。死々戸(ししど)とかな。ガイアエラルは神、死々戸は世界の中心にいるけったいな女だ。だが、残念ながらそいつは弟子だ。俺は親父とは違う。浮気なんかする訳ないだろうが」 ハッとなって息を飲んだ。 「俺が気付かんと思ってたのか。生まれ落ちて1週間かそこらは目が開かなかったが、あんたのチョイスしたドロシー・アッシュビーのソロハープアルバムが聴こえていた。その頃まだレコードだったがきちんとひっくり返していたのはあんたがしてくれたんだな。だがある日、A面終ったのにブツッブツッとしたノイズしか聴こえなくなった。早くひっくり返せ何やってんだと思って目を開いた最初の光景が、親父の腰に絡み付いたあんたの足だった。とりあえず俺は思った。終わったらさっさとひっくり返せと」 実にしょうもない乳児期の思い出話だった。 「べーも!べーも見たじょ!パパがママとペロペロしてたじょ!」 「べーくん、ちょっとお口チャックなのよさ。莉里の時は決してさせなかったのよさ」 「まあ気持ちは解らなくはないわね。私も、莉里(ニューカマー)なんか認めんとよく泣いてたが、それでも莉里と緑くんは出来た。子供のいる家庭によくあるイリュージョンって奴だな」 「だからやめなってみんな。見て見ぬふりする優しさと気遣いが大事だよ?」 「うん。ありがとうな流紫降。どうだお袋。俺達の子供は全員可愛いだろう?こいつ等が、どれほど俺の内側を満たしていったのか。何より、これほど可愛い子達を生んでくれた真琴だ。こんなにいい女房がいるのか?あっち(中国)じゃ白娘子(ハクジョウシ)は悲しい話だったが、うちのメス蛇ちゃんは俺の魂に幸福をもたらしてくれた。おいで、マコマコ」 手を取り合う幸せな夫婦の姿があった。 真琴は崩れ落ちそうになった。 離した手で尻を撫でて勘解由小路は言った。 「母親が魔女だったとはな。それも世界に数人しかいない大魔女(ギガンテスト)か。まあ俺は生まれたんだから、まあ成立するとは思う。あんたは、俺とマコマコの子作りに激怒し、俺を育て直そうと企み、俺を2歳児に変えた。それで行けると思ったが、今度はトキが俺の母ちゃんになろうとして暴れた。まあいいやと放っといたが、俺と親父が談合していると知り、いよいよ俺を赤ん坊にまで戻した。どうあっても、あいつのことは知られたくなかったんだな。どっこい俺はもう、そいつを知っている。短い間だったが、あいつの家に上がり込んだこともあった。あいつも、自分の母親はトキだと言っていた。あっちはあっちで色々あったんだろうな。だが会って理解した。あいつは、確実にもう1人の勘解由小路だ」 それは?勘解由小路の姓を名乗る全員が父親を注視した。 露香は、弾かれたようにトキを見た。 「あんたも知ってたのね?あのくだらない女の子供が、焔魔ちゃんの子だと」 「露香奥様に申し上げます。あの方をかばい隠してきたのは(わたくし)です。あの方は、高校に上がる際、お家を離れ、(わたくし)が面倒を見て参りました。新井田を名乗る女は、あの方がご無事と知ると、まるで興味を失った様子にて」 「何故?!何故黙ってたのよトキ?!」 激情に駆られた露香を放って、勘解由小路は言った。 「あいつの存在を知ったのは、俺が9歳の頃だ。下手に動いてあんたに知られるとロクなことにならんからコッソリ探すことにした。見つけた時もう俺は大学卒業して刑事になっていた。あいつはチョロい精神の引きこもりだったが、あいつとて勘解由小路だった。ある日、あいつは異世界に飛ばされて引きこもったり世界を治めたり引きこもったりしたが、結局今も引きこもっている。癇癪起こすなよお袋。次は異世界を滅ぼすつもりか?」 「場合によってはそうするわよ?本気で怒ったママは怖いでしょう?降魔ちゃんも焔魔ちゃんも愛する家族だもの。ああ♡降魔ちゃんの数億の幸福の運び手がママの奥を目指す展開が♡ママに普通の人間の法律なんか意味がないわ♡焔魔ちゃんも降魔ちゃんも同時に食べてあげるわ♡あんたは引っ込んでなさいスターレス!あんたはホントに食べるでしょうが!男も知らない腐れおぼこ魔女が!どうして私の前に現れたのよ?!」 おぞましい3PもOK(ウェルカム)な変態エロママは、星無を名指しして言った。 「ーーえ?おぼこって何?」 「お前だあああああ!っていうか最初からあんた鬱陶しい!ずっとずっとあんたが気になっていたのよ!何するか解んないから!」 この世の終末すら簡単に起こせる、恐ろしい大魔女が警戒する、もう1人の大魔女。 「そろそろだな。次はお前の番だ。星無」 星無月子。水晶堂のスターレスは、真っ黒な瞳を宙に漂わせていた。
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