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その時、空襲警報のような音が聞こえた。
「お腹が空いた」
大魔女終焉のスターレスは、物凄い間抜けな空気を振り撒いていた。
「世界の隅まで聞こえる腹の音か。実はな、星無は何もしていなかった訳じゃなかった。1番働いていたのが星無だった。で、何匹始末した?」
「1億から先は覚えていないわ」
そう言って、また1つクッキーをモグモグしていた。
「あんたあああああああ!人が生み出した獣をおおおおお!私の獣はたべっ子どうぶつじゃないわよおおおおおおお!」
7首の獣クッキーの、のりあじをモグモグしていた。
ちなみに、たべっ子どうぶつのりあじはもう販売されていない。
「まあそうだ。島原正男流紫降に緑と相当数の獣を滅ぼしてきたがな、星無にはまるで届いていない。全部食っていたんだこの馬鹿は。それぞれの領域の外にいる獣は星無の餌食にされていた」
「しょっぱい塩とのりの味わいが見事だった。ねえ、バターあじの獣は?」
「何をおおおおおおおおお?!お前はああああああああああ!」
ママは激おこしていた。
「とりあえずクッキー1億枚食えるこいつの異常性には目をつぶって話を進めよう。星無も大魔女だ。星無の言では大魔女はお互い不干渉であるべきって決まりが為されていた。世界に数人しかいないからな。滅多に会わないってのもあった。下手に大魔女同士がぶつかった時の迷惑を考えるとな。今回は世界の終末が来たが、星無が本気だしたら銀河系が終焉を迎えかねん。神ですら巻き込まれたただではすまん。何もかも、生きようとする意思すら一方的に終らせるのが星無だ。世間知らずだが宇宙最強の魔女がこいつだ。お袋もいい線行っているが、恐らく根こそぎってレベルでは星無には敵わない」
「た、確かにそう言う面もあるわよ?でもね?降魔ちゃんは知らないだろうけど、スターレスは昔とは違うのよ?」
「ああ。移動する災害にも等しかった、俺の爺いですら警戒していたハートレス・スターレスは心を得ていた。そろそろかな?2歳児の俺から知性を奪わなかったのは失敗だったな」
空間をぶち破って飛び込んできた黒塗りのリムジンがあり、庭木にぶつかってべちゃあと雪崩れ込んできたのは、猫とヤモリと鳥を連れた青年だった。
「ベネチアの水路で好きに釣り出来るツアーはどうだった?エキゾチックアニマル係」
「う、うるせえええええええ!でも釣れたぞシーバスが!ロングAのジャーキングで!ああヤバイ保孝が死ぬ!」
腹の下敷きになっていた、超大型のヒョウモントカゲモドキを救い出した。
「うがああああああ!圧死するところだったぞこの俺は!思わず尻尾噛み切るとことだった!」
「その鳥は、まさか!クリークウッド!」
「ああ、久しぶりだなワルプルギス。不干渉ルールを定めた時以来か」
鳥の正体を露香は知悉していた。真宵堂のクリークウッド。古から今も生きる最高の魔法使い。
そして、そのクリークウッドが鳥に変じても側にいる、そのやかましい釣りアホ青年は恐らく、あの時、父親の背後に隠れていた小さな子供。
「クリークウッドの息子。スピリドーノアのフォーマルハウトを滅ぼした魔法使い見習いの子ね?」
「よかったわね始。あんたのことを知ってる魔女がいて。素直に喜びなさいニャさい」
赤毛の長毛猫が言った。
「嬉しくねえよそんなの。ってああいたあああああ!星無!さっさと帰るぞ!」
頬をプクっと膨らませて星無はそっぽを向いた。
「いや。私は帰らない。降魔君ちの子になる」
「ガキか!お前は!さっさと帰るぞ!」
「や。すぐ怒る子は嫌い」
「揉め事解決は後にしろ。小僧、あったのか?」
「ん?ああそうだった!面倒臭かったがちゃんと見つけたぞ!ほれ!」
掌の上にあった小さなミニチュア釜を見せて言った。
「う、嘘!どうやってそれを?!」
「まあ。ワルプルギスの大釜を見つけちゃったのね?どこにあったの?」
「おっさんが言っていたホテルの部屋だよ。ジャスター凄かったぞ!保孝なんか食われる直前だったし」
「まあな。俺はあんたの息子だからな?お袋が隠すところなんかすぐ解る。6歳の時お袋の引き出しから見つけちゃったのは、クロッチの狭い前側に穴の開いたパンツと丸い包装の極薄って書いてあるゴム風船だった。暇な両親だと思ったが、俺は絶対に使わんと誓った。あとはそっちの領分だ。なあお袋、後期更新世よりはるか昔の新生代から平然と生きてた魔女の唯一の弱点にして力の根元である魔女の大釜はこっちの手にある。だからまあ、今回は俺の勝ちだぞお袋。ああ碧、お前、さっきは危なかったな。発動して当たり前なのに、何故か今回はあまり役に立ってなかったな」
「うるさいパパ。あんたの娘は頑張っていたぞ。何故か反魂の魔眼が発動しなかった。相手の敵意に反応して、自動的に発動するはずなのにな。それでピンと来た。怒りはあったが殺意は全くなかった。あの獣には。真帆は放っとけばよかったんだ。キレただけ無駄だったな、流紫降」
「それでも怒るよ。お婆ちゃん相手でもね。真帆ちゃんを驚かせたら許さない。お婆ちゃんは学ぶべきだったよ」
「それはいいんだがな。未だに戦ってる連中の中には、私の赤ん坊の父親がいる。それも学んどけ。あれが影山という男だ。怪我させたら許さん。婆ちゃんであっても」
「お袋はお前等を全く知らんのだから許してやれよ。影山さんなんか知らん。そう言えば、俺のマコマコに怪我1つさせたら、お袋でも容赦せん」
息子と孫は、どいつもこいつもそんな有り様だった。
「あんた等はどいつもこいつもおおおおおおおお!赤ん坊ですらおっぱいか?!色気付いちゃってあんた等はあああああああ?!」
母ちゃんは爆発していた。
「ちょうどよかったのよさあああああ!莉里は男に現を抜かしてないのよさ!何故ならパパこそが至高!パパの赤ちゃん生むのは莉里だけなのよさあああああ!ぎゃああああああ?!ママか?!莉里を捕まえたのは?!この不倶戴天の目の上のタンコブめええええええええ!」
「降魔さんの母親相手なので3歩退っていたらこれですか?1024回ですね」
「だから死ぬわああああああああ!何故4の累乗なのよさそもそも?!」
「知ったこっちゃないわああああああああ!降魔ちゃんは誰にも渡さんわ!愛してるわ降魔ちゃんんんんんんんんんん!!嫁も孫ももう要らん!滅べ奸婦共がああああああああ!」
母ちゃんの怒りで世界はむっちゃくちゃになりつつあった。
気が付くと、獣の集団は消え去っていて、ああよかったと思ったが、
「勘解由小路。あれは?」
島原は掠れた声で言った。
「あれだな。ラスボスはデカいってのがお約束と言うか何と言うか。流石に体長50キロに達する獣はな。昔、デイビッド・ソロモンってしょうもない奴が喚び出した奴より遥かにデカい。とりあえずあれだ、普通に立ってるだけで成層圏に達しているこいつにはオゾンが効かんし酸素も要らん」
「こんなのに勝てるかああああああああ!ハナちゃあああああああああん!」
正男は叫んでいた。
「お前!緑君の破邪の浄眼で戒めは解かれただろう!お前だけ棒立ちか?!いつもの奴はどうした?!」
「まあそうなんだがなあ。マコマコへの愛に目覚めたと同時に、ちょっと親というものへの認識が変わったんだ。俺が生まれた意味を考えるとな?中々暴れる訳に行かん。母ちゃん殴ったら駄目息子のレッテルをだな」
「あのおばちゃん昔から苦手だったぞ。何か怖かったし。でもな?このままだと死ぬ!何とかしろお前はああああああああ!」
「まあなあ。そう言えばあれだ、気付いたら、2歳にされた時既に俺の僕はいなかったんだ。莉里のボディーガードの護田さんとか緑の遊び相手の白鳥さん達はいたんだがな。現状30人いた僕は捕まり幽閉されているんだろうな。冥王ハデスの力のほとんども奪われていた。さっき緑が取り返してくれたんだがな。さて、激怒した母ちゃんをどうやって宥めようか」
それで斬獲しないのは相手が母親だからで。
ここまで傍迷惑な母親がいるのかって話だった。
一方的に勘解由小路に斬獲指令を出したとして、飲むのか?それを?
島原は、勘解由小路に視線を向けた。
今まさに、巨大すぎる獣の一踏みで、田園調布ごとこの辺りは圧壊するのは間違いない。
未だに怒り覚めやらんと言った母親が周囲を睨み、全員が動き出そうとした時、
メキメキと空間を罅割って現れたのは、
「よく解らんが、出られたっぽいぞ助手山。おういた。降魔にママちゃん。それに孫達か。諫早!孫とは遊べたか?!」
「助川だって何偏言えば」
現れたのは、出鱈目な男の父親っぽかった。
これから、勘解由小路親子が、事態を出鱈目な解決に導くらしいことだけは理解していた。
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