1人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
やって来たチャルメラ
その日、平和な勘解由小路家に訪れた客の姿があった。
「はい。あら?まあお久しぶりです星無さん。どうかなさいましたか?」
「別に。泊めて欲しいのだけど」
恐ろしき魔女。水晶堂のスターレス、星無月子は、いつもの喪服ドレスに、膨れっ面を見せていた。
星無は、その日、いつものように鍋で食品を煮込んでいた。
「チャルメラー。塩チャルメラー。美味いなー。チャルメラー。茄子チャルメラーマジで美味いー」
「チャルメラやめろって言ってんだろうが星無!」
いつものように居候の四月一日始が叫んでいた。
黒色聖典を父親から受け継いだ魔法使い見習いは、はるかに格上の存在である魔女を名指しでディスっていた。
「大体お前、俺のタックルボックスどこにやった?河童釣り上げた俺のダーターは特に。あれをプラで量産しないと。親父から受け継いだ俺の新ルアーメーカー「K・ファクトリー」改め「ガリラ屋」はようやく動き出したんだぞ?」
頭の悪いネーミングだった。
「ちゃんと片付けないと、お母さんどこかに捨てちゃうわよ?」
「誰が俺の母親だ?!葬式出ただろうお前!母さんの!」
「だから、真宵堂のクリーク・ウッドの奥さんは」
「言わんでいいってだから!気にしないって言っただろうが!それより俺のダーターは」
「今日のチャルメラはこれ。満月みたいに綺麗な黄色いエビチャルメラ」
「うおおおおおい!俺のムーンフェイスが!ダーターがじっくり煮込まれ!星無いいいいいいいいいい!」
「それで喧嘩になって家出することにしたの。しばらくお世話になるわ」
「膨れっ面のスターレスに名前変えろ。別に住み着くのは構わんぞ。隅っこの部屋が空いてる。トキ、部屋を片付けろ。マコマコ平気か?こっちにおいで」
緑を抱いていた真琴はウキウキで夫の胸にすがり付き、トキは一礼して言った。
「どうぞこちらへ」
貴狐天王モードのトキは、尻尾をブンと一振りして言った。
「ありがとう。尻尾隠せるようにするわね」
星無の下宿の準備は進んでいった。
「あれだな。魔女の力の根幹である大釜はないが、それでもお前達には影響を及ぼすんだな。子供達には距離を取らせれば問題ないようだ」
「星無さんには先日の事件で大変お世話になりました。出来る限りの助力をして差し上げたいのです」
真琴と星無の出会いは、去年の秋に起きた不可解な銃殺事件で、消滅しかけた勘解由小路と相棒の島原雪次を救出する為に、星無のアンティークショップ、水晶堂の扉を叩いたのがきっかけだった。
「そうだな。ルーリー事件で世話になったし。緑が無事なのがよかった。とりあえずうちの可愛いい蛇坊主が床を這いずらなくてよかった特に」
勘解由小路は息を吐いた。
「只今戻ったのよさああああああ!パパああああああああああ!莉里の目の黒い内は、ママとイチャイチャ許さんのよさああああああああああ!あん?」
帰宅1番父親の胸に飛び込もうとした勘解由小路の次女莉里(小1)は、廊下の奥の扉から、こっちをじっと見ているけったいな女を発見した。
「んー?誰なのよさ?うちに不法侵入は有り得んのよさ」
トテテと駆けていった。
「あら。可愛いお耳と尻尾」
「あん?」
頭に生えた三角のケモ耳を撫でられた。
「私は星無月子。真琴さんと降魔君の知り合いよ。ねえ、貴女名前は?」
「莉里を知らんとは。ってことはぷいきゃーも知らないと見たのよさ。莉里は三千世界に光をもたらす熾盛光魔法少女ぷいきゃージュエリー!悪い奴等は揃って斬獲なのよさ!」
「まあそうなの?何て可愛ーーいいのかしら。フサフサの尻尾はトキさん?と同じね?高温の油でカラッと」
「何か、名状し難き感覚が拭えんのよさ。マジでうちでカニバるつもりか?」
「私は魔女よ。魔法少女の上の存在よ。私の部屋に来て。美味しい魔法薬の作り方教えてあげる。あとこれ食べていいの?」
ピチピチ跳ねたピンク色の魚を摘まんでいた。
「クティーラは食べちゃ駄目なのよさ。元に戻すのよさ」
ボンクラな空気が流れていた。
最初のコメントを投稿しよう!