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両親が来た
「ほう。ここか。俺が生まれた直後の頃に親父が作った事故物件だったな。そうか。親父が上海から戻ってすぐのことだ。降魔の奴こんなところに」
勘解由小路の父親を名乗る男は、田園調布の旧西ノ森邸前に来ていた。
「警視庁創立以来から、ここは立入禁止になっていたね。迂闊に立ち入ると恐ろしい呪いを受けると専らの評判で。私の同期の男は、張り込みで立ち入って以来精神を病んで入院していた」
「馬鹿馬鹿しい。呪いなんてもんある訳ないだろうが。ママちゃん!ちょっと待ってて!諫早、嫁を連れて待ってろ」
ドアをノックして言った。
「降魔ー!父ちゃんだー!お前の父ちゃんだー!降魔ー!いませんかー?!」
シーンと静まり返っていた。
「おかしい。父ちゃんかー?ホントに父ちゃんかー?って来るはずなんだがな。百億万円札も用意してある」
凄い馬鹿親子がいた。
「降魔ー!俺の息子の降魔ー!いるんだろう?!」
うんともすんとも言わなかった。
ふん。勘解由小路焔魔は鼻白んだ。
「降魔ー!小学4年生で30すぎのトキと部屋にしけこんでた降魔ー!10歳でもうババアにお口で抜いてもらってた降魔ー!ババアと今でもコッソリ浮気してるであろう降魔くーん!」
バタンと、乱暴に玄関扉が開いた。
「ーーな?」
ドヤ顔しやがった最低な父親の姿があった。
「お邪魔しますよー!ババアのおっぱいを親父に隠れて吸ってた降魔くーん!ちなみに親父はとっくに知ってたぞー!ババアを共用するとは何て変態坊主なんだお前はー!」
「やかましい!とっとと入ってこい!」
妙な声が聞こえた。
確かに、娘を独占して未だに孫にも会わせてくれない忌々しい義理の息子の声なのだが、まるで録音した音源をどこかで再生したように。
「教授。アンドレハルファスです。ご子息様の僕悪魔です」
「お前は馬鹿か助手。悪魔なんていないって。おう。廊下に立ってるこいつか。何だ?神楽に出てくる河童か?こいつが悪魔?付き合っていられん。入ってこいって言うなら行こうじゃないかママちゃん」
面付きの奇っ怪な家人を完全スルーして言った。
「私の坊やがここに!ママが来たわよおおおおおおおおおお!降魔ちゃああああああああああああああん!」
恐ろしい速度で奥に消えた勘解由小路の母親の、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
「パパああああああああああ!パパ君!奇跡が起きてるわああああああああああ!天使ちゃんは死に帰す!されど母の愛は万有をして蘇らしめんよおおおおおおお!こっちにいらっしゃい坊や!うっきゃああああああああああ!」
何か、よく解らないことを言っていた。
「大原美術館のフレデリックの絵か」
勿論諫早は知らないが、倉敷の大原美術館には、20世紀のベルギーの画家、レオン・フレデリックが25年をかけ描き上げた巨大な宗教画があったという話だが、正しいタイトルは万有は死に帰す。されど神の愛は万有をして蘇らしめんで、天使ちゃんと母の愛は出る幕がなかった。
とりあえずおかしなことが起きているなら私の領域だろう。
諫早は、妻を伴って母由小路の後を追い、寝室の前で固まった。
「ま、真琴!」
きゃあああああああああ!静江は恐怖の悲鳴を上げた。
「まあ、お久しぶりですお父さん。お母さん」
血塗れの娘は、とても冷めた声で言った。
「とりあえずだな。石山さんお願い」
娘が抱いた生意気そうに言った2歳児くらいの子供の左腕が、肘から引き千切られていた。二の腕の先からビュービューと血が吹き出ていた。
要するに、憎き義理の息子は、何故か2歳児になっていた。
「久しぶりに会った息子は血塗れじゃないか。ああ。そのおっぱいが嫁か。お前がバコバコしてるトキ以外の女の好みは一族揃って同じだな」
「トキの話はするなってだから」
ぶちんと、左腕が肩口から千切れた。
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