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孫に会いたかった
2歳児になったにも拘らず、勘解由小路は真琴のおっぱいを枕にして偉そうにしていた。
高そうな女もののワンピースを着ていた。
あと、左腕は繋がっていた。
「昨日は午前4時頃まで濃密な子作りをしていたのですが、払暁に降魔さんが降魔ちゃんになっていました。降魔ちゃんが気にしなかったので、おっぱいをあげながら心地よい二度寝を」
ざっくりにして要点を得ていた証言があった。
「濃密って?具体的には?」
「ママちゃん。気持ちは解るが場所を考えろ。諫早もいるんだがな」
「そ、そうだ!うちの娘はそんなことせん!」
真琴は少し考えて、思い出したように言った。
「ベビーベッドの緑くんはいい子で寝てくれたので。まず降魔さんは私のおっぱいを1時間かけて念入りにペロペロしてくれました。それから先は降魔ちゃんに叱られるので黙秘します。とにかく、昨日は27回ほど、降魔さんのぷくっ♡を。とても幸せな夜でしたが♡」
「何だな、表裏のないいい嫁だな」
ギリギリと歯軋りする妻を、焔魔は見つめていた。
「降魔ちゃん♡ママのところにいらっしゃい♡ママよ?降魔ちゃんを生んだママが私よ?」
要するに人類の原罪を産み出した女と言えた。
原罪は涼しい顔で言った。
「断る。見ろこのフワッフワの重爆おっぱいを。ソファーに立つとようやく可愛いマコ顔と見つめ合えるこの状況に乗っかろう。んー」
「んー」
チュッチュしてる馬鹿夫婦の姿があったが、残念ながらここにいた大人の半分は真琴を産み出した人物で、恐らく製造責任を問われそうだった。
製造責任者は揃って項垂れていた。
「で?お前等は何で家族のオアシスに来たんだ?事件の相談なら乗ってやろう。昨日テレビでやってたJk行方不明事件だが、群馬の田舎の負け犬夫婦を探してみろ。多分渋川辺りにいる」
「違う!いつまでも経っても連絡も寄越さんし!莉里は?!私の孫は?!」
「ふうん。そうだった忘れてた。盆と正月が来る度何か忘れてないかって。双子の次に莉里が出来て、生まれてからも大忙しだった。正直お前等の出番がなかった。心から喜ぶのは流紫降くらいだろう。なあ、碧を釣るなら本だ。初版のコーランとか喜ぶぞ。別にアッラー・アクバルって叫んでカラシニコフ乱射するような娘じゃないぞ。莉里は現ナマ積むしかないぞ。億単位で」
「出来るかあああああああああ!その赤ちゃんは?!まさか!」
「現状末っ子の次男の緑だが、何か?おおこっち来い坊主」
「シュカートはいたチーパパ大しゅきだじょ。とどのちゅまりママも大しゅきだじょ。ちこうちてべーは愛されてるじょ」
「赤ん坊がとどにつまりに而してとか言っている!みーくん!いやべーくんだった!じーじですよおおおおおおお!」
「お婆ちゃんよ!勘解由小路君!抱っこさせてお願い!真琴もいいわね?!」
勘解由小路の両親を放って静江はそう言った。尋常でない目をしていた。
「マコマコ、どうしよっか?」
「緑くんが嫌がらなければ、いいのではないでしょうか?」
「緑。ママの親がいきなり会いに来たんだがな。どうする?」
「うにゅう。パパ?」
「そうだ!ママのパパだよ!静江この可愛さを見ろ!真琴の生まれた頃にソックリだ!」
とりあえず、ヨタヨタと歩いて手を伸ばした緑を、諫早は抱いて涙を浮かべた。
「ああ嬉しい!じーじだよ!勘解由小路君この子はもう歩くのか?!」
「ああ。来月にはもう走るぞ。今生後8ヶ月だ」
「8ヶ月でここまで喋るのか?!非常識な孫だな本当に!ああ!緑君!緑君!」
泣きながら頬ずりしていた。
「んにゃ?じーじのくちゃい匂いするじょ。ばーば来いだじょ。おっぱいに覚えがあるじょ。うっきゃあ!おっぱい!おっぱい!昨日ベーがお休み前のパパみたいだじょ!」
お婆ちゃんのおっぱいは意外にも好評だったようだった。
「貴様!2歳児のくせに!真琴のおっぱいだと?!赤ん坊の前で何をやっている?!」
「子作りしたのは緑が眠ってからだが。あとな、今はオス蛇ちゃんがうんともすんとも言わんが、昨日はそれはもう濃密な子作りをだな」
諫早は、何とも汚ならしいものを見るような目で勘解由小路を睨んだ。
「そういう視線は俺じゃなく別の奴に向けろよ。緑は大人しいが、あと1時間16分後に帰ってくる莉里達に通用するかな?俺が愛想よくしろって言えば。なあ?俺に喧嘩を売るなよ?お年玉を7年分請求されるぞ?」
このクソッタレガキが。
諫早は強い強い呪詛を飛ばした。
「何だ?浮気親父の呪詛に呼応するようなこの霊気は?ってああ、お前かトキ」
浮気のことは言うなあああああああああ!
諫早は叫び、現れたトキは、とっくに貴狐天王を降ろし、勘解由小路を見つめ、激しく猖獗していた。
「あん?トキじゃないか。ママちゃんもそうだが全然変わらんなお前は。親父に連れられてうちに来た時のままだ」
「これはお久しゅうございます。焔魔様。こちらにいらっしゃるのは露香奥様でいらっしゃいますね?総監と奥様もご健勝で何より。されど今はお下がりくださいませ。ああ。ああ!お会いしとうございました!お可愛らしい私の坊っちゃま!どうしてこのようなお姿に?!」
「あん?さあなあ。寝て起きたらこうなっていた」
鼻血が、ツウっと垂れた。
「ああ我が夢の成就がここに!かくなる上は、私が育ててご覧に入れます!そして!凛々しく育ち遊ばれた坊っちゃまと私の間には!ついに!ついに遺作が!参りましょう私の紫の君!」
変態狐ババアの脳裏には、幼児育成しかる後にアネショタ展開を越えて見事に孕む女光源氏の野望が見えていた。
「降魔ちゃんは私の坊やなんだけど」
母勘解由小路は冷めた目で言い、立ち上がった真琴は、鼻血トキと睨み合っていた。
「その、出来の悪い二次創作エロ漫画のような妄想は許容出来ません。降魔ちゃんは私の夫です。いずれ育つなら、私との間に子供を設けて然るべきです」
こっちはこっちで人妻の妄想世界が広がっていた。
「私は稲荷山トキ。奥様にお仕えするが私の使命。坊っちゃまは既にその令で私を縛り賜り。ああしかし!この可愛らしい坊っちゃまのお腹を!そのもう少し下の子供らしからぬ部分を縦にねぶり上げ、先端をこれでもかと含んでご覧に入れます!」
「そう。それです。降魔ちゃんのオス蛇ちゃんをペロペロしていたんですね?忌々しい狐に滅びを。こっちを見ろ」
モノクルを感情的にかなぐり捨てた。
思わず夫の腕を引き千切っていた蛇嫁のシャツには夥しい血痕がへばりついていて、金色に輝く邪眼もあいまって、壮絶な邪悪な霊気を感じ、一斉に鴉が逃げていった。
「教授、よく解りませんがお茶はいかがです?」
「邪魔だ助手。息子の嫁と昔の女が今殺し合うところだ。嫁おっぱいが見えんぞ」
呑気な物言いの陰で、トキの目が怪しく光っていた。
「ほう。邪魔するなら是非もなし。蛇を食らう時はここに来たれり。天地創造空間開闢。急急如律令」
トキは空間を広げたが、知ったことかとばかりに真琴はトキを蹴り飛ばして消えた。
「あん?嫁は?トキも。どこ行った?」
「決闘場だ。気にすんな」
「ま、真琴おおおおおおお?!トキさまあああああああああ?!」
「パーパー。ぎゅーしてー」
緑はジタバタ祖母の腕の中でもがいていた。
その時、家の居候が騒ぎを聞き付けやって来た。
「何を騒いでるの?ーーあら?」
勘解由小路露香は、現れた黒一色女を見て硬直していた。
「あら。貴女は」
「初めまして名も知らぬお嬢さん!私は勘解由小路降魔ちゃんのママ、勘解由小路露香と申します!スーーお名前は?」
「お袋が聞いてるぞスーー星無」
「て言うかどうしたの?降魔君?ああ私は水晶堂のスーー星無月子よ。ワルプーー露香さん」
「よかったなブロッケン工房のワルプルギーーお袋。星無のノリのよさに感謝しとけ」
本人出てきてつい出ちゃったんだな。
勘解由小路はボソッと呟き、勘解由小路露香は、美しい顔をひきつらせていた。
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