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永田栄司の運転はそれはもう酷いものだった。
自動車教習所で何を学んできたのかと言われるほど。
栄司の運転する車は蛇行運転もいいところで、車体は右へ揺れ左へ傾き、挙げ句の果てには電柱や標識はまだマシで、住宅のガレージにぶつかることも多々あった。
最終的には何もないド田舎の田んぼへ単独で突っ込み栄司は静かにこの世を去った。
だからといって納得出来なかった。
何故自分が地獄行きなのか。
目の前で頭をかきながら地獄の主である閻魔は言う。
「だって君の運転でどれだけのものが犠牲になった? 信号機、標識、ガードレールに……」
「生き物は殺してないじゃないか! 全部単独で起こした事故だし、勘弁してくれよ」
栄司はどれだけ極悪な運転をしても人だけは引かなかった。
もっと言えば、道を歩くハクビシンを避けて田んぼに突っ込んだくらいだ。
自分の運転で命を奪ったことは一度もない。
しかし栄司のどんな言い訳も閻魔は右から左に受け流すだけ。
「君の運転で被害金額とんでもないことになってるから。銀行強盗が盗む平均金額を上回ってるから。よって重罪」
「そんなぁ」
栄司が膝を地面につき落ち込んでいると閻魔は言った。
「でも君にチャンスをあげよう」
「チャンス?」
「そう」と閻魔は指を栄司にさしニタリと笑う。
「君には地獄行きの者を地獄へ送る送迎バスの運転手をやってもらう。そこで千人の死者を地獄へ送り届けることが出来たのなら、君を天国行きにしてあげよう」
こうして栄司は地獄への送迎バスの運転手をすることになった。
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