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遺品
ゼェハァゼェハァ。
ゼェハァゼェハァ。
私はふと足を止め、あたりを見渡す。
建物の残骸だろうか?白いコンクリートの大きな塊。そして硝子の欠片。
その上からは、猫の掠れた鳴き声が響いてくる。
ニャー。
私はとてもこの場所には不釣り合いな服装だ。
ジーパンにTシャツ。だが、足元はこれまでに一度も履いた事のない赤いハイヒール。
ゆっくりと猫の鳴き声のする方に向かって歩いていく。
フラフラとよろけながら...。
コンクリートの塊は、私が踏みつける度に足元をふらつかせた。
私はハイヒールを脱ぎ、硝子の破片に気を付けながら、上へと歩いて行く。
そうして数分が経った頃、私はようやく建物の残骸と思われるものの頂点にたどり着いた。
頂点からこの街を見渡すと、街全体はキレイで大きな建物が立ち並び、令和の空気が漂っているのに対し、このコンクリートの塊がある部分だけが、妙な時代遅れ感を覚えさせた。
ここだけが昭和初めの頃だろうか。古くからある使い込んだ学校を思わせる建物の残骸が散らばり、昔ながらの駄菓子屋さんなどが近くには並んでいた。そしてその瓦礫の上に私は今立っている。
誰のものなのか。さっきまで私が履いていた赤いハイヒールは道の途中で、置いてきてしまったが、とりあえずミケの無事は確認できた。
ミケは大好きだった祖母の飼い猫だった。
そして、私にとってミケは、祖母が残してくれた未来への希望だ。
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