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失踪宣告
七年前、彼は趣味の山登りをしに行ったまま、帰って来なかった。
待てど暮らせど「彼」は戻ってこない。
そして今年の春、失踪宣告を受けたばかりだった。
「ーーほんもの??」
不思議そうに彼の頬を摘まんだり、頭を撫でたりしながら聞いた。
「何言ってんだよ。ホンモノだよ!!」
ツカサはそう言って笑った。
「ねぇ、、ツカサ、どこに行ってたの?七年間もーー??」
「七年前のあの日、俺はあの山で遭難してしまったんだ。。慌てて降りようとして、今度は帰り道が分からなくなってしまって......」
「ーープッ。何やってんの??」
「笑ったなー!!」
ツカサは不機嫌そうにしながらも笑っている。
「ーーそれで?」
私は話を元に戻した。。
「慌てたせいで、足を滑らせて、俺の体はまだあの山にいるんだ。頼むよ!!俺を探してくれ!ーーお前ならきっと見つけてくれるだろう?」
ーーえぇ??探す??
「探すって言ったって今ここにいるじゃん?ーーえ?帰ってきたんでしょ??」
ーーいや、、ここにいる俺はお前の記憶だ。ーーいや、、違う。ここにいる俺は、お前の記憶から抜け出しただけだ。
だから、俺を探してくれ!もうお前しか頼れないんだ。。
ーー俺を助けてくれ!!
「一つ質問なんだけど、、」
「なんだ?」
「ツカサはまだ生きてるの?それともーー」
「残念ながら俺はもう......」
「何で、あなたは今ここにいるの?」
「せめて体だけでもココに帰りたいんだーー頼むよ!」
数秒間の間の後、私はようやく決意を固めた。。
ーーわ、わかった。。
「どのあたりにいるの?」
「山の中腹くらいかな?ーー1人では行かないでくれよ!ホントに危険なんだ。捜索のプロの人に頼んでくれたらいいから」
「頼んでみる。。」
ーーにゃー。
ミケの鳴き声でふと我に帰ると、ほぼ同時に彼はまた、私の目の前から消えてしまった。七年前のあの日と同じ様にしてーー。
突然、現実に引き戻された様な気がして寂しかった。でも心にはまだ温かい感情が残されている。
彼の頬の温もり。
抱きついた時の温もり。
まだ思い出せる。
今彼と再開した事によって、より鮮明により温かく思い出せる気がした。
先ほどの彼の出現は、嘘ではなかったのだと思えるくらいに温かい。
ーーまたツカサに会えたんだ。
ーーでも、彼はもう......。
彼の体と向き合える日まで、その事は忘れていよう。
彼が既になくなっている事はーー。
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