断罪エンドはとっくの昔に回避したはずなのに、今さらですか?【後編】

1/1

424人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

断罪エンドはとっくの昔に回避したはずなのに、今さらですか?【後編】

 レティシアを連れたロシュフォール達は、マルタの治める領地の城館へと入った。その領地の境界線近くで、ようやくおいついた軍と合流出来、形式だけは整えての入城となった。  自分で歩けると告げても、ロシュフォールはレティシアを片腕で縦抱きにしたまま、その腕から離さなかった。しかたないと諦めて、領主であるマルタとアーリー夫妻の挨拶をそのまま受けた。  “ちょっとした事件”はあったが、これでマルタの領地は王直々の訪問を受けて、面子を保った形だ。  「早くに休みたい」とのロシュフォールの言葉に、レティシアの来訪のために整えられていた客間へと案内された。  そのまま寝室へと直行しそうなロシュフォールに「まず湯浴みをさせてください」とレティシアは訴えた。さすがに三日間牢屋に閉じこめられていたのだ。髪も身体も洗いたい。  それはロシュフォールもわかったのだろう。湯浴みを済ませて部屋に戻れば、彼もまた軍装を脱いでズボンとシャツのみの軽装となっていた。 「あなたも湯浴みされたらどうですか?」 「俺は湯を用意してもらって、身体をぬぐった」 「そうですか、わっ!」  ふわりとだきあげられて、居間から隣の寝室へと、そのまま寝台に横たえられる。 「直截でらっしゃいますね。もしかしてこのまま?」 「当然だろう。お前の無事を確かめさせてくれ」  せっかく着たばかりのシャツをはぎ取られる。その性急さに「ご自分の歳を考えてください」と言いかけてやめた。  レティシアもロシュフォールの肩よりシャツを落としながら、触れたその肌の熱さに安堵を感じていたからだ。 「今回ばかりはダメかと思いました」  両手を広い背に回す。初めて抱き合ったときも、この手は回りきらなかったが、あのときより年輪を重ねて、さらに身体の厚みが増したと思う。 「馬鹿なことを言うな。諦めるなどお前らしくない」 「ええ、あなたが必ず助けに来てくれるとも信じていました」  顔をしかめたその眉間のしわにちゅっと口づける。年相応の風格と渋さをました顔立ちが好きだと思う。  ますます王の顔となった。ただし単騎で自分を助けに駆けつけるなんて無謀なことには、あとでたっぷりお説教をしないとと思う。息子のランベールにもだ。  でも、今は……。  眼帯の後ろの結び目をロシュフォールの手によっと解かれる。そして、現れた目の傷に彼はいつも儀式のように口づける。何回も何回も。  それから下に手を滑らせて。 「あ……尻尾…お好き…です…ね……」 「触り心地がいいからな。こっちも……」 「うぁ……」  銀色のふんわりとした尻尾をもまれて、しなやかに背を反らせる。ぴくぴく頭の上で動く耳もだ。かしりと噛まれて、舌を差し入れられて、内側の産毛を舐められるのとその水音にさえあおられる。 「お前も好きだろう?」 「あなたがいつもそうするから…で…しょ……っ!」  胸にまで滑り降りた唇に、胸のとがりに吸い付かれて、息を詰める。「変わらない憎まれ口もいい」なんていう男の頭を反射的に抱きしめて、その金色の巻き毛を一房引っぱってやる。「痛いぞ」なんてちっとも痛くない声で笑っている。  胸の上でうごく金の巻き毛の上にある丸い小さな耳に、逆襲とばかり噛みついてやったら「いてっ!」と声があがった。それで溜飲がさげられたかと思えば、下に降りた手にきゅっと花芯を握りしめられて息をのむ。  そこは今までの愛撫で立ち上がり蜜をこぼしていて「ここはいつも通り素直だ」なんて、嬉しそうに笑ってゆるゆる手を動かされて「あ、あ、あ……」と声があがる。  声をこらえるのを止めたのはいつからだったのか。我慢して眉間にしわを寄せていたら、慰めるように唇を寄せられて「素直に声を出してくれ。俺ばかりがよくて、お前が苦しいのは嫌だ」なんて、憂い顔で言われたからだ。「抱き合うなら、お互い良い方がいいだろう」との言葉もすとんと胸に落ちた。  金色の頭が胸から下へと滑るのに「私も……」と言ったら、体勢を入れ替えてくれた。厚みの増した身体の上にのせられて、身体は反対向きに。  目の前にロシュフォールのすっかり立ち上がった剛直がある。口に含んでも含みきれず、あまる根元を両手で握り締める。片手では指が回りきらない。  初めて口に含んだとき、ロシュフォールがひどく慌てて驚いていたことを覚えている。手が伸びてきて、一旦、顔をあげさせられたぐらいだ。「無理しなくていい」と。 「どうしてそう思うのです?」 「だってお前は嫌だろう?男に奉仕するなんて」 「奉仕ではなく、私だってあなたに気持ち良くなってもらいたいのです」  そう伝えたら、ひどく嬉しそうに笑って、顔中に口づけられた。 「あ…うんっ……うまく…出来ま…せ…ん……」  口と指で一心に剛直を育てていたら、ロシュフォールの大きな口に含まれていた花芯のみならず、後ろの蕾にまで香油で濡れた指が入りこんできて、同時になんて耐えられる訳がないのだ。だからいつも途中で口を離してしまう。  だけど、耐えられないのは別の意味でロシュフォールも一緒だったようだ。「可愛い口もいいが、お前のなかにはいりたい」と身体を引き起こされて、向かい合わせに膝の上に。  指ですっかりほぐれた蕾に、熱い剛直が押し当てられるのに、はあ……と息をついて、己の腰をつかむ両手がうながす、ままに腰を落とす。  先の太い部分がはいればずぶずぶと奥まで。「あ、あ、あ……」と声がこぼれる。突き上げられれば、それは嬌声へと変わる。 「レティシア、愛しいレティシア、変わらずお前を愛している。俺の人生でお前を失うことなど、考えられん」 「あ…っ……あ…ロシュフォール、私も……」  乱れて理性を手放したときだけ、陛下ではなく名前を呼ぶことを、レティシアもわかっているのか。細い身体を抱きしめて、最奥にうちこみ情熱を注ぎ込むロシュフォールが目を細めてそれを聞く。  そして、一度で金獅子の欲望がおさまるはずもなく。勢いを失わぬ剛直をゆるゆると動かしながら、そのしなやかな身体を押し倒す。  それに応えて広い背に爪を立てながら、すらりと白い足を腰に絡めるレティシアだった。  が、翌日、そんなことなどすっかり忘れて「あなたはなんでそんなにいつまでも元気なんですか!」と寝台から起きあがれずに文句を言う、大公殿下の姿があったとか。  サランジェへの帰還が一日遅れたことは、言うまでもない。    ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ 「お母様!」  サランジェ王宮。形式ばった貴族達の出迎えなど、さらりとレティシアは流して、後宮へと向かう。王家の居間に足を踏み入れれば、真っ先に飛び出してきたミシェルに抱きつかれる。「母様?」と自分達の母親の勢いに、後ろから妹の手を引いてついてきた銀狼の小さな王子と銀狐の小さな王女の姿にレティシアは目を細める。ヴァルデマル王子、アン・ソフィ王女だ。 「お母様、お母様、心配しました。かならずお父様が助けてくれると信じていたけど」 「ミシェル、あなたはいつも大げさですね」  言いながら真っ直ぐな自分の髪とちがって、ふわふわとした銀色の髪をなでてやる。ぺたりと寝ていた頭の上の耳も、レティシアがなでるととたんピンと立ち上がるから、泣きべそをかきながらも元気なのはあいかわらずだ。  そして、もっと心配な子がいる。 「シエナ」  名を呼べばレティシアに抱きついていたミシェルも、気付いたように身を離して振り返る。  居間の奥の椅子にちょこんと腰掛けている。水色のふわりとしたドレス姿の黒狐。その頭の上の耳はぺたりと寝て、スカートから出た尻尾はたらりと垂れていた。世話係のメイド達の手によって、その毛並みは常に艶やかであるが元気がない。  そして、ゆったりとしたドレスに包まれたお腹はふっくらとふくらんでいた。 「大公殿下、ご無事のご帰還……」  そこで言葉が途切れて、黒い大きな瞳から涙が決壊したかのようにぽろぽろとこぼれて、白く丸い頬に伝う。レティシアは立ち上がろうとするシエナを「そのまま」と手で制して、自分からそばにより、その細い肩を抱きよせる。 「あまり泣いてはお腹の子にさわりますよ」 「は、はい。ランベール様も行かれるからきっと大公殿下は大丈夫だと、ミシェル様もいつも言葉をかけてくださいましたけれど……」  そこでレティシアがミシェルを見れば、ミシェルがまだ瞳を潤ませたまま、ふわりと微笑む。ちょうど里帰りをしていたこの子が、シエナのそばにいてくれてよかったと思う。  そうでなければ、ロシュフォールとランベールがいなくなった後宮で身重の身で一人。孤独と心配に耐えねばならなかっただろう。 「違うでしょう?」  ハンカチで涙をふいてやりなから、レティシアはシエナに優しく語りかける。 「私を呼ぶのに大公殿下ではないと教えたはずです」 「はい、お義母様」  レティシアを見てやっと安心した黒狐は、泣き笑いの表情で微笑んだ。    ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ 「……やはり背後にボルボン国がいましたか」  三ヶ月後、諸々の処理のごたごたが終わりレティシアの執務室。執務机前のちょっとした応対のための小卓と椅子には、国王に参謀である大公、そして皇太子の姿があった。 「ボルボンはパオラ・デ・リガウドとは、とっくの昔に縁は切ったの一点張りでしょうけどね。裏ではひそかに連絡を取り続けていたわけです」  ランベールが肩をすくめる。  サランジェと南西に国境を接するボルボンはパオラの生国であり、彼女を通じて色々とサランジェに隠謀をしかけてきた経緯があった。  「まったく、あの国もしつこい」とロシュフォールがぼやく。 「とはいえ、あの女がらみのことはこれでしまいだ。さすがにあの岩の修道院からは脱出できまい」  パオラの身柄は、海に浮かぶ岩山の上に建てられた修道院へと幽閉の身となった。島からサランジェの海岸は見えるが、海流が激しくとても泳いで渡るのは無理。慣れた船乗りが操る船でないと島にも近づけないという場所だ。  パオラのために作られた豪奢な“貴賓室”に彼女は一生閉じこめられることとなった。ロシュフォールの言葉どおり、二度とは出て来ないことを願おう。 「さて、話し合いは終わりです。ランベール、あなたは早くシエナとオリヴィエの顔を見たいでしょう?」  先日シエナは無事に男子を産んだ。オリヴィエと名付けられた金獅子の王子の誕生に、国は歓喜にわいたことは言うまでもない。  ランベールと言えば最愛の皇太子妃が生んだ王子の誕生に浮かれて、しかし生真面目な皇太子は執務の合間の休憩時間に、後宮にとんで戻り母子を眺める毎日だ。  「あ、いえ俺は……」と照れるランベールに、レティシアはすっと椅子から立ち上がって、部屋の外へと向かう。「早くしなさい」とランベールを振り返り。 「私もシエナと孫の顔を見に行きます」 「俺も行くぞ」  とロシュフォールがランベールより早く、レティシアに続く。  が、レティシアが急に口許を押さえて、うずくまる。 「レティシア!」 「母上!」  ふらついた身体をロシュフォールに抱きとめられて「大丈夫か?」という言葉に「少し気分が」と言う。  吐き気はするが吐くものがないのは、このところ食欲がないからだ。胃でも悪くしたのか?と思ったが。 「……そういえば、お前、昨日も今朝も果物だけで良いといってなかったか?」 「そうですね。食べ物の匂いがどうも……」 「それに俺は覚えがあるぞ。ランベールとミシェルを身籠もったときだ」  「まさか……」と声をあげたレティシアにロシュフォールが逆に珍しくも落ち着いて「侍医を呼べ」とそばに控える侍従に告げた。  国王夫妻の忘れた頃の王子誕生に国が沸き立つのはもう少しあとのこと。    END
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

424人が本棚に入れています
本棚に追加