軽くない。

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* 爪に色を乗せる前に爪先の汚れを石鹸で落として、消毒液で丁寧に拭く。次に甘皮を小さな鋏で丁寧に取り、透明なベースカラーを塗って順に色をのせていった。 私達は無言で、ひとつ目の爪先でひとつの夏が完結するまでずっと話さなかった。 聞こえていたのは、近くで遊ぶ子供の声と郵便配達のバイクが走って行く音。そして、私にだけ聞こえている心音。もし、指先から心音が聞こえるなら、きっと湊のはいつもと同じ速さなんだろう。速いのもやっぱり私だけ―――― 「美優、どうした?」 「煩い、黙って。集中してる」 「…ごめん」 へたに慰められたら、デートなんて行かないでって縋り付いて泣いちゃうんだよ、私は。 流れ出た涙を自分で拭った。湊は何も言わずに黙った。そうそれでいいの、黙って、見なかったふりをして。 一時間後。 「終わったよ」 私はそう言って、いつもと同じように湊に微笑んだ。プロのネイリストならプライベートには必要以上に踏み込まない。きっと笑みすらも練習だから。 でも、湊は微笑み返してくれない。 ただ心配げに私を見ている。
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