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正直、レイの家にいても、得る情報は限られる。無いといっても過言ではないだろう。 六畳一間のアパートの一室には家具がほとんど無い。母星で簡単なレクチャーを受けただけの地球に関する知識しかない私でも容易に理解できるほど、レイの生活は他の地球人とは異なっている。整理整頓というよりは殺風景の一言に限るこの部屋に、なぜレイは1人で住んでいるのであろう。確か、地球人はほとんどの場合、家族、つまり血縁の他者または契りを交わしたパートナーと共に住んでいるはずだ。レイのような青年が他人とほとんど関わらず1人で過ごしているのは珍しいケースであろう。 “1人”という言葉をレイはよく使う。僕は1人ですから。1人で食事は寂しいでしょう。1人という言葉はひどく曖昧に、しかし確実にレイを縛り付けていた。ふと気がつけば、もうほとんど私の食事は終わっている。じっと私がご飯をかき込む様子を眺めていたレイもそれに気付いたようで、1つ微笑みを落として、静かに席を立った。 「レイ」 「はい」 「レイは、何故1人なのデスか?」 瞬間、私は後悔した。 レイの目から感情が消え、相変わらずの微笑みは石のように固く強張ったものになったからだ。急いで訂正しようとしたが、こんな時にどの様な言葉を掛ければ良いのか、レクチャーでは学ばなかった。 「…」 「…ああ、ごめんなさい。突然、聞かれたものだから少し…少し、驚いて。」 「レイ、スミマセン。スミマセン。」 「いいえ、私の方こそすみません。そんなに謝らないで。大した事では無いのですからね」 「いいえ、いいえ。スミマセン。」 「あらあら…」 日本の伝統【土下座】と共にレイに謝罪の言葉を述べる。私はレイを傷つけてしまった。私の秋桜を。可憐な、私の秋桜を。 「…待っているのです」 ポツリ、と落とされた言葉は、まるで今のレイそのもののように、部屋の中に混ざり溶けていってしまいそうだった。 「ダレ、を?」 「誰でしょう。というか待っているんですかね僕は。」 包む沈黙。その次に紡ぐ言葉を私は知っているが、口にできない。一度私の体から出てしまえば、そのまま実体化して真実となってしまいそうで。なにも、怯えるような台詞ではない、何故言わないのだ、と私の中の私に叱咤されようとも、どうしても口にしたくなかった。 「愛する人を、ですかね」 紡いだのは、私では無かった。
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