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レイの体が大きく跳ねる。その体の震えすら愛おしく感じて、私はまるで外界から彼を隔離しようとするかのように手を這わせる。 「僕には、お金もありません」 「ハイ」 「地位も名誉も」 「関係無いデス」 「僕は」 「レイ、愛しています。」 地位も名誉もお金も。私には何一つ価値の無いものばかりなのだよ。 「レイが居れば良いデス。一緒に、いてくれませんか?」 「…僕、は」 大きく息を吸い込んだ拍子に、レイの涙がまた1つ零れ落ちる。それは、彼の頬を伝い落ちて、ひたり、と私の腕に染みこんだ。 「待っている人がいます。」 「…」 「もう戻らないのは分かっているのに、待っている人がいるんです。」 「…」 「…でも、佐藤さんが居なくなるのも嫌で、苦しくて」 「…」 「貴方の気持ちに応えられないけど、でも。もう1人は寂しい。」 「じゃあ一緒に待ちマス」 「…は」 「貴方の愛する人を一緒に待ちます。ソレなら無事解決」 「でも、それでは余りに貴方が」「デモはもう良いデス。…大丈夫。これから先、共に暮らすことにより、いつの間にかレイの心が私に動いていく事を狙っての作戦デスから。それに私はまだ仕事が終わってないから星に帰れないのデス。だから、おあいこデス。」 「…おあいこ、でしょうか」 「ハイ。おあいこデス。」 「…じゃあ、おあいこですね。」 私は大きく頷いた。調査に一区切りつけて長官に話をするには、地球年にして後50年くらいは最低でもかかるだろう。その間にレイをゆっくり落とせば良い。私は思わずにやついてしまった。 しばらくすると、やっとレイが体の向きを変えてくれたので、私達は向かいあって顔を見合わせることができるようになる。赤く腫らしたつぶらな瞳には、私の嬉しそうな顔が映っている。ふわり、といつものように微笑まれると、これまたいつものように私の脳裏に秋桜の花が浮かび上がる。 可憐な可憐な 寂しがりの 私だけの秋桜。 ****・****・****・**
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