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顔が出てきた。あのときと変わらないひげもじゃじいさんだ。ぱちぱちと目を瞬いて、白いいればを見せた。
「やぁ、成功したね。大きくなったケンくん。新作見てくれないかい」
「うん。僕の新作も見てくれないかい」
風が吹いた。僕とハカセの再会を喜ぶように、大きな木は葉をさわさわと揺らしている。庭園の桜の花吹雪も舞いだす。
「ほう。それはすごいのう。見せてくれ」
ハカセははしごをおりてきた。
僕は箱を開けて作品を、シャベルを取り出した。
「見た目は園芸用シャベルですが、ただのシャベルじゃありません。しゃべるシャベルです。会話ができます」
「ほう。すごいの」
ハカセはシャベルを手に取ると目を細め、いろいろな方向から眺めだした。
「これなら、話し相手がいない人でも寂しくないかと思って。ハカセみたいに」
「へぇ。そうかい」
シャベルに夢中なハカセは、僕の言葉なんて聞いてないようだ。
僕は息を大きく吸いこみ、声を放った。
「ハカセ!」
「どうしたんだい」
ハカセの注意を僕に向けることに成功した。
なのに目を反らしたくなる。でも、伝えなきゃいけないことをしっかり伝えるために、思いきって口を開く。
「実は、僕には友達が仲間ができました。そのシャベルは、仲間と共同で作りました。これから僕は、その仲間と研究をしていくつもりです。
だから、その、待っていてくれて申し訳ないのですが、結局ハカセを独りに」
「そうかい。よかったじゃないか」
「へ?」
張りつめていた僕の気が抜けた。
「わしはケンくんを独り占めしたくなかったからの。わしだけのもの、でなくなってよかったわい」
「でも、ハカセは寂しいでしょ?」
「マコさんがいるから大丈夫じゃ」
と、楽しげに樹上を見上げるハカセ。
マコさんは木の外やなかを飛び回って掃除している。
「そっか」
楽しそうな二人に、安心して笑顔になる。
「それに、わしも新しい友達ができそうなんじゃ。だから、ケンくんはもう来なくていいぞ」
「うん。わかった。ありがとう」
「この、シャベルはいい発明品じゃな。孤独な者を助けるじゃろう。
けど、頼りすぎはよくないから、ある時期が来たら爆発するように細工したらどうかな」
と、ハカセは物騒な提案をして、シャベルを僕に返してきた。
「いきなりは心が砕けそうだ」と、昔友達だった者の提案を僕は否定した。
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