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久しぶり
僕は箱を抱えてハカセのお屋敷に約十年ぶりに向かっていた。これから暖かくなる風が桜のはなびらを箱に乗せていく。
小学生から大学生を過ごしてきた十年は僕にとって濃密で長かったと思う。
けど、ハカセにとっては春休みが終わるくらいの感覚かもしれない。あの木がまだあるならば。
見覚えがある瓦がのった土塀が近づいてきた。時を止めたように変わらない。
少しどきどきしてくる。
久しぶりに会うからというのもあるけれど、あの木が存在するのか不安だ。かつて見たものは夢だったのではないかと、最近は自分の記憶を疑いだしている。
でも、あれが現実だったとして今日ハカセに会えたら、伝えなきゃいけないことがある。
箱にかかった手に力がこもった。手のひらだけ汗ばみながら、お屋敷の門へ一歩一歩近づいていく。
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