そして今

1/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

そして今

 あれから十年。ハカセはタイムツリーハウスでまだ僕を待っているだろうか。マコさんは僕の依頼をやってくれただろうか。  夢みたいに楽しくて、夢みたいに不可思議な発明品だったから、夢だったのではないかと思えてくる。  思い出でいっぱいになった僕はいつしか門の正面に立っていた。  子どものころ気軽にとおっていた門は、木戸で閉ざされている。深呼吸してインターホンのボタンに指を伸ばす。  そのとき、戸が開いた。  指は目的を失って、いや、僕は登場したモノにあっけにとられて、腕がおりた。 「ケンくんですね?」 「まマコさんですか」  懐かしいマコさんの声が機械的に話す様は……、人間ではなく機械に見えてくる。  ヘルメットと銀色のスキーウェアみたいなスーツに全身がおおわれていて、それは宇宙服のようでロボットのようでもある。 「あ、驚かせてすみません。このスーツはご主人様の新作です。とても便利で」  新作と聞いて、胸が一つ高く鳴った。  あの日々は夢じゃなかったのだ、と。 「じゃあ、じゃあ、ハカセはいるんですね」 「はい。あの木でお待ちです」  と、マコさんは木がある庭園へと歩きだした。 「あのう。依頼した件はどうなりましたか」 「十年間ぶんで、一億円です」 「え」 「なんて冗談です。ケンくんは忘れずにいたのですね。ありがとうございます。  このとおり、ハカセとなかよくしたことで素晴らしいスーツをいただきました。ですから、報酬はいりません」 「へえそうでしたか。それはよかったです」  ハカセとマコさんが元気そうでよかったし、高額な報酬を請求されなくてよかったと思った。  大人になったら払うと約束したものの、今大学生の僕には大学ノートほどの厚さの札束を用意するのも難しい。    やれやれ、と吹き出しかけた額の汗をぬぐう。そして、ふと思った。そもそも子どもの口約束を本気にする訳ないのに、なんでマコさんは引き受けてくれたのだろう。 「マコさんはなぜ請け負ってくれたのです」 「わが子を思い出しました」  あの大木まで来て、マコさんは立ち止まった。  木には、はしごと十二支の時計が変わらずついている。 「え。マコさんってお子さんいるのですか」 「離れて暮らしていますが」  え、と新たな事実に驚いている余裕はなかった。  マコさんが垂直に飛びあがったのだ。腰のあたりから白いガスが噴出していた。次の瞬間にははしごの一番上にふわりと着地している。  見事なパフォーマンスにあっけにとられていると、マコさんは時計をノックした。  木穴のとびらとなっている時計がゆっくりとスライドし、穴が開いていく。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!