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そして今
あれから十年。ハカセはタイムツリーハウスでまだ僕を待っているだろうか。マコさんは僕の依頼をやってくれただろうか。
夢みたいに楽しくて、夢みたいに不可思議な発明品だったから、夢だったのではないかと思えてくる。
思い出でいっぱいになった僕はいつしか門の正面に立っていた。
子どものころ気軽にとおっていた門は、木戸で閉ざされている。深呼吸してインターホンのボタンに指を伸ばす。
そのとき、戸が開いた。
指は目的を失って、いや、僕は登場したモノにあっけにとられて、腕がおりた。
「ケンくんですね?」
「まマコさんですか」
懐かしいマコさんの声が機械的に話す様は……、人間ではなく機械に見えてくる。
ヘルメットと銀色のスキーウェアみたいなスーツに全身がおおわれていて、それは宇宙服のようでロボットのようでもある。
「あ、驚かせてすみません。このスーツはご主人様の新作です。とても便利で」
新作と聞いて、胸が一つ高く鳴った。
あの日々は夢じゃなかったのだ、と。
「じゃあ、じゃあ、ハカセはいるんですね」
「はい。あの木でお待ちです」
と、マコさんは木がある庭園へと歩きだした。
「あのう。依頼した件はどうなりましたか」
「十年間ぶんで、一億円です」
「え」
「なんて冗談です。ケンくんは忘れずにいたのですね。ありがとうございます。
このとおり、ハカセとなかよくしたことで素晴らしいスーツをいただきました。ですから、報酬はいりません」
「へえそうでしたか。それはよかったです」
ハカセとマコさんが元気そうでよかったし、高額な報酬を請求されなくてよかったと思った。
大人になったら払うと約束したものの、今大学生の僕には大学ノートほどの厚さの札束を用意するのも難しい。
やれやれ、と吹き出しかけた額の汗をぬぐう。そして、ふと思った。そもそも子どもの口約束を本気にする訳ないのに、なんでマコさんは引き受けてくれたのだろう。
「マコさんはなぜ請け負ってくれたのです」
「わが子を思い出しました」
あの大木まで来て、マコさんは立ち止まった。
木には、はしごと十二支の時計が変わらずついている。
「え。マコさんってお子さんいるのですか」
「離れて暮らしていますが」
え、と新たな事実に驚いている余裕はなかった。
マコさんが垂直に飛びあがったのだ。腰のあたりから白いガスが噴出していた。次の瞬間にははしごの一番上にふわりと着地している。
見事なパフォーマンスにあっけにとられていると、マコさんは時計をノックした。
木穴のとびらとなっている時計がゆっくりとスライドし、穴が開いていく。
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