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越前岬
長い炎昼にようやく翳りが見えてきた頃、白いバンが堤防道路に停まった。
海水浴には遅いこの時刻に車から降りて来た男たちは、どう見ても海遊びを楽しむ風体ではなかった。
「もう日の入りじゃないっすか」
宮本はタモを手に持って嘆いた。
「仕方がないだろう。ここへ来るのに5時間もかかったんだから」
新庄は眉一つ動かさずに記録紙の束を抱えて砂浜を進む。
「だから明日にしましょうって言ったのに」
梶田もブツブツと文句を言いながら、観念したようにズボンの裾をまくっている。
「大体クラゲなら研究室にいるじゃないですか」
丸井の泣き言に、新庄は資料を眺めながら答えた。
「同じDNAの個体で検証したらデータが偏るじゃないか。研究室にいるのは東京湾と沖縄の個体だ。必要なのはこの越前のベニクラゲなのだよ」
教授である新庄にそこまで言われては、学生に逆らう術はない。宮本、梶田、丸井の3人はあたりが暗くなるまで地道にタモを振るって検体を採取し続けた。
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