宵の口と人魚

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宵の口と人魚

 夕焼けが海を染めたかと思うと、昼間の熱をはらんだまま、辺りは濃紺の夜に包まれた。 「よし、そろそろ上がろうか」 新庄の声に、三人の学生はよろよろと曲がった腰を伸ばす。 「よかった! 正直、腰がもう限界で!」 大きく伸びをした宮本は、沖合にバシャリとはねる魚影を見た。 「なんだ? イルカ?」 「野生のイルカがこんな浅瀬まで入ってはこんだろう」 「いやでも今、尾びれが見えた気がしたんっすよ」 宮本は意地になって海を睨みつける。 「そんなこといいから、早く撤収しようぜ」 「帰り道、また5時間かかるんだぞ?」 重そうにバケツを車へと運ぶ梶田と丸井が宮本を呼ぶ。  しぶしぶ陸に上がりながら、後ろ髪を引かれる思いで振り向いたその時、宮本は月明かりに照らされた彼女を見つけた。  真っ白い裸体が月の光を反射して、淡く発光しているように見える。 上半身がうねる波間に隠れると、大きな尾びれが追従する。 「に、に、人魚!?」 思わず宮本は裏返った声で叫んだ。
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