大切なリボン

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大切なリボン

 そろそろバレンタイン。そんなある日。学校から家へ帰る途上で気がついた。お気に入りのリボンがないことに。  私が三歳の頃に、お父さんが買ってくれたピンクのリボン。お父さんが残してくれた唯一の形見。いつも髪に結んでいたのに。  ランドセルを背負ったまま、元来た道を引き返す。  学校まで、目を皿にしてやって来た。見つからなかった。いつ、なくしたのだろう……三時間目の体育の時には、あったはず。  残っている生徒もまばらな学校内を、探す勇気はない。怪訝に思った先生に声をかけられるのも嫌だ。  家へと歩き出しながら、自分の意気地のなさに、情けない気持ちでいっぱいになる。  リボンをなくしたんだけど、知らない? と、同級生や先生に聞けたら、どれだけ楽だろう。  お父さんの形見より、保身が大事な自分に対する嫌悪感で、思わず涙が溢れてきた。  だめ……こんなとこで泣いていたら、目立っちゃう、だけど止められない。
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