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黒い影
自意識過剰だと理解している。声なんてかけられるわけもない。
ただ、私の挙動を他人に見られる、そんな些細なことですら、鉄骨に全身を握りつぶされるくらい苦痛だった。
二十台くらいの車が停められそうな駐車場は、平日の明るい時間帯ということもあり、空きが多かった。
ここで時間を潰そうかな? そんな考えも一瞬、心に咲いたけど、凍てつく木枯らしが、木の葉とともに吹き飛ばした。
こんな寒空の中でじっと立っているのは、退屈だし辛い。出よう。と、左足を浮かせた時。
小さな黒い影が、私の前を横切り、駐車されている軽トラックの下へと潜り込んだ。
突然起きた現象は、私の全身を、蛇に睨まれてしまった蛙のように緊張させた。
今のなに? 猫?
周りの様子を窺いながら、軽トラックの側面へ移動する。
私の推理は当たっていた。軽トラックの下には、真っ暗な成猫が一匹、お腹を見せてくつろいでいた。
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