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初めて……じゃない
「なにより無事で良かった」
鼻筋が通っている顔
穏やかな口調で
中低音の声。
ベッドの右側に立つ髪がオールバックの男性に見覚えがあった。
まさか。
「アンタ……仁希じゃないよね?」
確認で聞いただけなのに、グッと銃口を押し付けられ、シーンとしてしまった。
長身の彼は僕の顔を見て、大きく目を見開く。
「あの時のお医者さん……君やったん?」
「ジョニー、何かされたんか?」
奥から掠れた声が聞こえてきて、この人たちのリーダーかなと思う僕。
「実験台として腸を弄らせてもらったんだ」
「なんでそんな言い方するん!」
抵抗するように声を上げる仁希を尻目に、ほうと息を吐いた人がトントンと歩いてくる。
2つに分かれた棒の振り回したのが見えて、目の前に差し出された時には先がフォークになっていた。
「俺の大切なやつを2人傷つけたってことは覚悟出来てるな?」
しゃがみこんで僕を睨んでくる瞳は鋭い。
「ジャッキー、ちゃうねんて!」
「血圧上がるから感情的になるな! 死ぬぞ!!」
渉が叫ぶから、心配になって注意をする。
「その人は悪いことしてへんのよ……ジャッキー」
仁希が代弁するから、ジャッキーと呼ばれた彼は眉間に皺を寄せる。
「詳しく教えてくれるか? あんちゃん」
ジャッキー……義維はよく行っていたクラブの料理人。
優しくてしっかりしていると思っていたけど、始末屋だとは思わなかった。
『お前、いい食いっぷりするわ。見てて気持ちがええ』
作業を終えると、いつもナポリタンの大盛を食べていた。
なぜかいつもガサツに頭を撫でられていたけど。
「腸が捻れて死にかけたイケメンと頭の中に異物が大きくなって困っていた人を助けただけだよ。苦しんでたから助けた……それだけ」
僕が平然と言った。
「ただその前に僕を苦しめてきた3人の悪魔を地獄へ落としてやった。この罪は何をしても消えないよね?」
同情なんかいらないから。
さっ、いつも通りにやってよ。
「じゃあ、最後に一つ聞いてもええか?」
その声は不思議と優しかった。
「なんでいつもナポリタン食べてたんや?」
このタイミングに聞くことじゃないでしょ。
「かあちゃんの味がナポリタンだったから。一回食べたら懐かしくて、それからつい頼んじゃうんだ」
恥ずかしくて、死にそうになる僕。
でも、義維は口角を上げ、フォークを閉じる。
「助けてくれて、ありがとうな」
かわいい笑顔を見せてくれて、頭を軽くガシガシされた。
『どや、美味しいか?』
それはいつものナポリタンをカウンターで黙々と食べる僕に向けていたものと同じだった。
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