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終わり
2018年7月9日午前4時45分
いつもより早く目が覚めてしまった僕。
でも、両手足と体幹を抑制具で止められて身体拘束されてるから動けない。
逃げないってあんだけ言ってたのにさ。
むしろ、今日が来るのを待ちわびてたんだから。
まぁ、誰か起きるまで待つしかないかな 。
その数秒後には死んじゃうんだけどね。
「よく眠れたか?」
けだるそうなのに、どこか優しげな高い声が聞こえてきた。
「うん、熟眠感ありありだったよ……まぁ、この後すぐ永久に眠るんだけど」
ぬっと現れた黒髪の細い顔の世羅は珍しく苦しそうに顔を歪ませた。
僕は虐げられた3人の男女に復讐した正真正銘の悪人。
逮捕されていたらとっくに死刑になっている。
世羅は野放しになっている悪人を始末するグループのリーダー。
始末屋なら、依頼して調べた上で悪人と判断したら、容赦なく裁いてくれると風の噂では有名なんだ。
でも、なぜか1年生かされてしまった。
僕は持っている証拠は全部明かした。
“僕がやりました“と素直に言ったんだけど。
メンバーの多数派が許してくれなかったんだ。
それでも、世羅はずっと悪人扱いしてくれた。
“お前のこと、絶対許さんからな“
寝る間も惜しんで、裏付けを取ってくれた。
協力者がいたかも、なんて疑惑も晴らしてくれたすごい人。
さすがブレーン。
でも、今の世羅の涙袋にはいつもより濃いくまがあって、顔も蒼白い感じがする。
「世羅こそ、大丈夫? まさか眠れなくてそこのソファで寝たとか言わないよね」
そんなわけないやんと目を逸らす世羅。
そうだよ……冷徹なアンタが言い出したんだもん。
お願いだから、そのままでいてよ。
世羅は何も言わず抑制具を外してくれる。
さぁ、執行の時間だ。
起き上がるとみんなもそろそろと集まっていた。
「リ、ン……」
昨日の夜、悪足掻きで僕を逃がそうとした渉は泣き腫らした瞳と口をぐっとつぐんでいた。
色付きメガネをしてても、ちゃんとわかる。
アンタ、背中と腰の骨折れてんだから。
自分のことを考えなよ、アホ。
「ちゃんと見送ってあげよう」
渉の背中に身体を寄せて支えてくれる一番のイケメンは仁希。
ルックスも完璧だから、男の僕も色気にやられかけた。
アンタは腸詰まらせたんだから、気をつけなよ。
すぐに始末されなかった原因の1つがこの2人。
看護学校で優秀だった僕が一番興味を持ち、熱心に勉強したのが“外科“だった。
医学部に入るほどの頭とお金はなかったんだけど、資料と動画を見て練習していた。
だから、3人も人知れずに殺せた。
でも、手術をしなきゃ生きられないほど追い詰められた2人を救ってしまった。
仁希は腸閉塞、渉は髄膜腫。
仁希は自首しようとした時、渉は僕の誕生日。
そりゃあ苦しんでいる患者さんを見捨てることは出来ないでしょ。
医療従事者の卵だから?
いや、違う。
人間としての優しさでしょうよ。
「なぁ、最後の晩餐にナポリタン……食わせてやろうや」
義維……ここのナンバー2のアンタが足を引っ張るなんてどうしたの?
人情味がある人ではあったけど、このタイミングはバカ過ぎる。
アンタのナポリタンは最高だよ……あの当時も、今も。
ああ、大盛で食べたくなってきたじゃん。
「ジャッキー……あきませんよ」
優しくいなすのは陸。
そのアンタの筋肉隆々の身体が震えているように見えるのは気のせいか?
自ら命を絶つつもりだった僕を止めて、怒ってくれたよね。
僕の罪を一番否定し、僕を一番信じようとしてくれた。
一番変なやつだったよ。
「おっさん! はよ、撃ってまえや!!」
荒々しく叫んだのは夏樹。
アンタはずっと疑ってくれてて、ありがたかったよ。
優しい嘘もついてくれたよね。
これからも、生意気なままでいて。
「じゃあな……リン」
今日は震えてないね、哀。
きちんと、即死するポイントに銃口が当たってる。
さすが、優秀な狙撃手さん。
「天国にも地獄にもいかん。お前は無の世界で苦しみ続けろ」
冷たい声で言い放つ世羅。
ああ、やっと終わる。
僕は静かに目を閉じて、口角を上げた。
ありがとうね。
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