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「なにボーッとしてるの?」
突然、背後から抱きつかれた。
「わっ、紗奈! ちゃんと髪乾かして」
ドライヤーを渡す。
「は〜い」
付き合うようになって半年くらい。紗奈が泊まっていくようになって三ヶ月くらいかな。今では着替えや部屋着、歯ブラシなどの小物も違和感なく置かれている。
「さっきね、出会った時のこと、思い出してたの」
ドライヤーを終え、ソファに座った紗奈に笑顔を向ける。
途端に、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「思い出さないでよ〜」
「なんで? アレがなかったら付き合ってなかったんだよ?」
「それはそうだけど」
「可愛かったよ、紗奈」
「は? どこに可愛い要素が?」
あの時も、今日と同じようにカーテンを開け外を眺めてた。
すると、なんだか様子がおかしいランナーさんがいた。ヨロヨロと歩いていたかと思ったら、うずくまって動かなくなったのだ。
これは大変だ! と思って、部屋を飛び出した。道路を渡って土手を降りて追いかけた。その時はお腹を押さえながら歩いていたから。
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ」
振り向いた顔は、何度か部屋から見かけたことがある、年下の女の子だった。
「具合、悪いんじゃ?」
「いえ、大丈夫です」
「でも、顔色悪いですよ?」
「いえ、ほんとに。ちょっとトイレに行きたいだけなんで」
「あっ、じゃ、おトイレ使って! うち、すぐそこだから」
「いえ、そんな、ファミマで借りますから」
「ファミマ? 200mくらいありますよ? ほら、うち、このマンションだから」
ちょうどエントランスの目の前に差し掛かっていた。
「でも、大の方なんです」
女の子は苦しいのと恥ずかしいので、半泣き状態だった。
「だったら尚更、うちに来て! なんならシャワーも貸すよ?」
「そんな、シャワーなんてとんでもないです」
「じゃ、トイレだけね! はい決まり」
ちょっと強引だったかな、と思ったけれど、放ってはおけない。
「すみません。では、お言葉に甘えて」
「初対面の歳上の綺麗な人の家のトイレ借りるなんて、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね」
「今じゃ、もっと恥ずかしい事してるけどね」
「うぐっ」
「ふふっ、やっぱり可愛い」
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