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出会い
そろそろかなぁ、と思ってカーテンを開けて見下ろす。
細い道路の、その向こう。川沿いの土手。
犬の散歩の人、ウォーキングの人、ジョギングの人。
しばらく眺めていたら、見えてきた! 赤いキャップ。遠くからでも分かりやすいようにと、私がプレゼントしたものだ。渡した時には、これを被れと? と嫌そうな顔をしていたのに、このコースを走る時には欠かさず被ってくれている、律儀な人。
少しずつ大きくなってきた。相変わらず綺麗なフォームで近づいてきた。
マンションのエントランス付近に来た時、チラッと見上げたその顔は、間違いなく私の彼女だ。
数十秒後、インターフォンが鳴る。
「また、階段駆け上がってきたの?」
呼吸がゼーハーしている。
「うん、美穂さんに早く会いたくて」
「エレベーター使っても変わらないでしょ?」
「いや、三階までなら走った方が早い」
言い切っている。
「まずはトイレ?」
「また、それを言う? 今日は大丈夫! シャワー借りていい?」
「やった! 泊まっていけるのね」
「はい、明日は休みなので」
照れ笑いの彼女--紗奈を浴室へ見送る。
私のマンションは、彼女のジョギングコースの途中にある。知り合って、付き合うようになってからは大抵寄ってくれる。ちょうど良い休憩スポットだからと言って。休憩だけの時は、家までまだ走って帰るのでシャワーすることはない。
シャワーの音を聞きながら、私は幸せを噛み締めた。
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