青い雫

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青い雫

 真っ白な指から水面(みなも)へ垂れていく、青紫の雫。  与えられた一粒を飲み込んだ運河は瞬く間に青く澄み、キラキラと光を反射した。優しい水辺の匂いはしなやかな幽香(ゆうこう)へと変わっていく。  ゴンドラの上で、客達は次々に歓声を上げた。  風と共に歌う花も、夜の空を踊り明かす星も、これまで目にしたことのあるどんな絶景も、屈した。全てを清く食らう青に。  周りの客達と同じように(あるじ)の肩で懸命に鼻と腹を膨らませはしゃぐ幼い竜は、浄化された空気をめいっぱい取り込む。  興奮する小さな竜を肩に、少年は、生まれて初めて喉を鳴らした。生まれて初めて、身が震えるほど心が(たけ)る。美しく塗り替えられた水面に。指から滴る青紫を船の外へ向けたまま、ライラックの髪を風に遊ばせて微笑む少女に。  何年ぶりだろう。誰かを求め、自分から手を伸ばしたのは。
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