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「あ、でも僕お金ない……エミリオ様……」
すぐに勢いを緩めたロイズがしゅんとした上目遣いで縋ると、エミリオは優しい手付きでロイズを肩に戻した。
「もし時間があるなら、僕達の買い物に付き合ってくれませんか」
「買い物?」
病院や薬局よりもずっと気を遣わなくて済む誘いに、少女は頭を横に傾ける。
「もちろん財布を出せとは言いません。一緒に選んでもらうだけで……その時に、代わりのハンカチも買わせてください」
「そ、そこまでしてもらっちゃ悪いですっ。お詫びをしなきゃいけないのは私の方だからっ……」
「だったら尚更買わせてください。そして受け取ってください。そのお願いを叶えてくれることが、僕への一番のお詫びになります」
「……いいんですか?」
「いいも何も、それがあなたに一番してほしいことだから」
階段を上りきったエミリオは、有無を言わさず、街の店が密集している側のエリアへ歩を進める。
半歩ほど遅れる形で、少女も続く。肩から斜めに掛けたショルダーバッグの紐を、ぎゅっと両手に握りしめて。
スムーズに事が運んだ。しっかりと黒無地のストールを掴むロイズは、にんまり笑った。
船上で少女を引き留めたのも、一緒に買い物を回るよう画策したのも、主のためだ。ずっと彼女にそわそわした視線ばかりぶつけていたから。
船の上で、ジュリから投げかけられた“お人形さん”。その意味を今、主はこの少女に感じているに違いない。
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