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優しい魔法
煉瓦の門を潜った先で三人を迎えたのは、豊かな緑と、そこから生まれた華やぐ甘い香り達。
専門店や遊び場も点々と建ってはいるが、多く見受けられるのは緑と花に囲まれた屋敷だ。一部の壁や門や鉄柵にも蔓が伝っており、まるで個々のコテージガーデンを繋ぎ合わせたような、長閑な街並みが広がっていた。
土地自体は変わらず水に囲まれているが、手漕ぎの船は通らない。人の通りも落ち着いている。
両脇には、艶やかな花を飾る生垣。甘い香りが絶えない通りを、ロイズはキョロキョロ見渡す。
「こっちは静かなところですねぇ……」
「観光エリアから居住エリアに移ったみたい。生垣も花も背が高いから、はぐれたら見つけにくいかも……ロイズ。気になるものがあっても、あんまり迂闊に飛んでいかないように」
「はぁい」
こっくりと頭を縦に曲げるロイズは、しっかりと主の肩にしがみつく。
「リラも……」
「ねぇ、エミリオ君」
そわそわした様子のリラが、エミリオのストールをちょんちょんと引っ張った。
「それ被らないの? 絶対似合うから……見てみたいな」
ぶかぶかの裾からはみ出した手は、ストールを離れ、エミリオの手元を指す。小鳥を操る女性から手渡された、幼気な花の冠を。
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