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主にニッコリ笑いかけたロイズは、今度は花の冠に守られたライラックの頭を撫でに行く。
「ホッとしたんでしょ? リラ。エミリオ様が、あんまり当たり前に傍にいてくれるから」
「……はじめて、だったから……」
言葉を思い出したかのように、震える喉が、嗚咽の奥から気持ちを運び出す。
「大きな怪我、しても……『痛かったでしょ』って、言ってもらえたこと、なくて……」
「うん。うん」
「角とかも、こんな、何でもないことみたいに、受け入れてくれて……」
「嬉しかったよね。よしよし」
大丈夫。大丈夫。
ロイズは手のひらにありったけの優しさを詰める。少女が必死に抑えていたものを、好きなだけ解放できるように。
この世の生きとし生けるものは、自分と違う種には敏感だ。なのに、その者達の痛みには驚くほど鈍い。己が当たり前に持つ“傷付く”という感覚が、相手にも備わっているのだとは考えない。
特に二つの種の特徴を半分ずつ持つ混血の者は世にも珍しく、存在だけで注目されてしまう。
船上で優しくない視線や言葉をぶつけられても冷静でいられたあの態度は、悲しい“慣れ”だったのだとしたら。ああやってやり過ごすのが、彼女のこれまでの“日常”だったのだとしたら。
「……リラ」
しばらく続いた嗚咽が少しずつ治まっていくと、花の甘さを跳ね退け、高貴な香りが降りた。エミリオが、リラの正面に跪いた。
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